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学校会計のチカラ
新会計基準における財務分析について(その4)

先週は、新会計基準における財務分析について、貸借対照表の変更点について比較しました。 今週は、第2回目及び第3回目で紹介した新会計基準における財務比率について、理解する上でのポイントを解説します。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。

≪事業活動収支計算書関係比率≫

新比率名 理解のポイント
人件費比率 人件費は学校における最大の支出要素であり、この比率が適正水準を超えると経常収支の悪化に繋がる要因になります。したがって、教職員1人当たり人件費や学生生徒等に対する教職員数等の教育研究条件等にも配慮しながら、各学校の実態に適った水準を維持することが望まれます。
人件費依存率 一般的にこの比率が100%を超えないことが理想的です。また、高等学校において、学費軽減補助金が多額に交付されており、相対的に学生生徒等納付金が低い水準に抑えられている場合は、分母に学費軽減補助金を加えて評価することも有用です。
教育研究経費比率 収支均衡を失しない範囲内で高くなることが望ましいとされています。なお、高等学校法人等では、教育研究経費と管理経費を区分していない場合もあり、この場合は両者を合算した 「経費比率」として分析を行います。
管理経費比率 比率としては低い方が望ましいとされています。なお、管理経費と教育研究経費の区分、両者を合計した経費の支出状況や減価償却の程度等にも留意が必要です。
借入金等利息比率 借入金等利息は外部有利子負債がなければ発生しないものであるため、 この比率は低い方が望ましいとされています。
事業活動収支差額比率 この比率がプラスで大きいほど自己資金が充実し、 財政面での将来的な余裕につながります。逆にマイナスになる場合は、当年度の事業活動収入で事業活動支出を賄うことができないことを示し、基本金組入前の段階で既に事業活動支出超過の状況にあります。マイナスとなった要因が臨時的なものによる場合は別として、一般的にマイナス幅が大きくなるほど経営が圧迫され、将来的に資金繰りに支障をきたす可能性があります。
基本金組入後収支比率 一般的には、収支が均衡する100%前後が望ましいと考えられますが、臨時的な固定資産の取得等による基本金組入れが著しく大きい年度においては、一時的に急上昇する場合もあります。
学生生徒等納付金比率 学生生徒等納付金は、補助金や寄付金と比べて外部要因に影響されることの少ない重要な自己財源であり、この比率が安定的に推移することが望まれます。この比率の評価に際しては、同時に学生生徒等納付金の内訳や学生生徒等1人当たりの納付金額、奨学費の支出状況も確認することが重要です。
寄付金比率 一定水準の寄付金収入を継続して確保することが経営の安定のためには望まれます。今後の学校経営においては、学内の寄付金募集体制を充実させ、一定水準の寄付金の安定的な確保に努めることが重要です。
経常寄付金比率 上記寄付金比率につき経常的な要素に限定した比率です。
補助金比率 この比率が過度に高い場合、学校法人独自の自主財源が相対的に小さく、国や地方公共団体の補助金政策の動向に影響を受けやすいことになるため、場合によっては学校経営の柔軟性が損なわれる可能性もあります。
経常補助金比率 上記補助金比率につき経常的な要素に限定した比率です。
基本金組入率 大規模な施設等の取得等を単年度に集中して行った場合は、一時的にこの比率が上昇するため、基本金への組入れが安定的に行われることが望まれます。したがって、この比率の評価に際しては、基本金の組入れ内容が単年度の固定資産の取得によるものか、第2号基本金や第3号基本金にかかる計画的な組入れによるものか等の組入れの実態を確認しておく必要があります。
減価償却額比率 減価償却額は経費に計上されていますが実際の資金支出は伴わないものであるため、費消されずに蓄積される資金の割合を示したものと捉えることもできます。
経常収支差額比率 経常的な収支バランスを表す比率として新設
教育活動収支差額比率 本業である教育活動の収支バランスを表す比率として新設

≪活動区分資金収支計算書関係比率≫

教育活動資金収支差額比率 この比率はプラスであることが望まれますが、「その他の活動」でキャッシュフローを生み出し、教育研究活動の原資としている場合もあり得るため、「その他の活動」の収支状況を併せて確認する必要があります。

≪貸借対照表関係比率≫

固定資産構成比率 学校法人が行う教育研究事業には多額の設備投資が必要となるため、一般的にはこの比率が高くなることが学校法人の財務的な特徴です。また、固定資産構成比率は、流動資産構成比率と表裏をなす関係にあります。
有形固定資産構成比率 学校法人では教育研究事業に多額の施設設備投資を必要とし、 この比率が高くなることが財務的な特徴です。
特定資産構成比率 一般的には、この比率が高い場合は中長期的な財政支出に対する備えが充実しており、計画的な学校法人経営に資するといえます。この比率が低い場合には主に二通りの評価が考えられます。一つは固定・流動を合わせた金融資産が少ないため特定資産の形成が困難な場合であり、資金の目的化以前に財政基盤の脆弱さ、資金の流動性の問題が懸念されます。また、もう一つは金融資産は少なからず保有しているが特定資産を形成していない場合で、この場合は直ちに財政基盤が脆弱であるとはいえません。近年では中長期的な視点にたった経営計画の策定と経営計画の下支えとなる特定資産の重要性が高まっているため、利害関係者への説明責任の観点からも計画的な特定資産形成が望まれます。
流動資産構成比率 一般的にこの比率が高い場合、現金化が可能な資産の割合が大きく、資金流動性に富んでいると評価できます。この比率が低い場合であっても、低金利下での有利な運用条件を求めて長期預金や長期有価証券を保有している場合や、将来的な財政基盤の安定化のために金融資産を目的化して特定資産化している場合には、必ずしも流動性に乏しいとはいえないため、特定資産や固定資産の有価証券の保有状況も確認して評価を行う必要があります。なお、流動資産構成比率は 固定資産構成比率と表裏をなす関係にあります。
固定負債構成比率 主に長期的な債務の状況を評価するものであり、流動負債構成比率とともに負債構成のバランスと比重を評価する指標です。学校法人の施設整備計画や手元資金の状況に比してこの比率が過度に高い場合には、経営上の懸念材料となる点に留意が必要です。
流動負債構成比率 主に短期的な債務の比重を評価するものであり、固定負債構成比率とともに負債構成のバランスと比重を評価する指標です。学校法人の財政の安定性を確保するためには、この比率が低い方が好ましいと評価できます。なお、流動負債のうち、前受金は主に翌年度入学生の納付金であり、短期借入金とは性格を異にするものであるため、流動負債を分析する上では前受金の状況にも留意する必要があります。
内部留保資産比率 この比率がプラスとなる場合は運用資産で総負債をすべて充当することができ、結果的に有形固定資産が自己資金で調達されていることを意味しており、プラス幅が大きいほど運用資産の蓄積度が大きいと評価できます。逆にマイナスとなる場合、運用資産より総負債が上回っていることを意味しており、財政上の余裕度が少ないことを表します。
運用資産余裕比率 学校法人の一年間の経常的な支出規模に対してどの程度の運用資産が蓄積されているかを表す指標です。この比率が1.0を超えている場合とは、すなわち一年間の学校法人の経常的な支出を賄えるだけの資金を保有していることを示し、一般的にはこの比率が高いほど運用資産の蓄積が良好であるといえます。なお、この比率の単位は(年)となっています。
純資産構成比率 この比率が高いほど財政的には安定しており、逆に50%を下回る場合は他人資金が自己資金を上回っていることを示しています。
繰越収支差額構成比率 一般的には支出超過 (累積赤字) であるよりも収入超過 (累積黒字) であることが理想的です。しかし、単年度の事業活動収支を分析する場合と同様に、事業活動収支差額は各年度の基本金への組入れ状況によって左右される場合もあるため、この比率のみで分析した場合、一面的な評価となるおそれがあります。この比率で評価を行う場合は基本金の内訳とその構成比率と併せて検討する必要があります。
固定比率 土地・建物・施設等の固定資産に対してどの程度純資産が投下されているか、すなわち資金の調達源泉とその使途とを対比させる比率です。固定資産に投下した資金の回収は長期間にわたるため、本来投下資金は返済する必要のない自己資金を充てることが望まれますが、実際に大規模設備投資を行う際は外部資金を導入する場合もあるため、この比率が100%を超えることは少なくありません。なお、固定資産に占める有形固定資産と特定資産の構成比にも留意が必要です。
固定長期適合率 固定資産の取得を行う場合、長期間活用できる安定した資金として自己資金のほか長期借入金でこれを賄うべきであるという原則に対してどの程度適合しているかを示しています。この比率は100%以下で低いほど理想的とされます。100%を超えた場合は、 固定資産の調達源泉に短期借入金等の流動負債を導入していると判断することができ、 財政の安定性に欠け、 長期的にみて不安があることを示しています。 固定比率が100%以上の法人にあっては、この固定長期適合率を併用するとともに固定資産の内容に注意して分析することが望まれます。
流動比率 学校法人の短期的な支払い能力を判断する重要な指標の一つです。 一般に金融機関等では、 200%以上であれば優良とみなしており、 100%を切っている場合には、 流動負債を固定資産に投下していることが多く、資金繰りに窮していると見られます。ただし、 流動負債には前受金の比重が大きいことや、 流動資産には企業のように多額の棚卸資産がなく、 ほとんど当座に必要な現金預金であること、 さらに、 資金運用の点から、 長期有価証券へ運用替えしている場合もあり、 また、 将来に備えて引当特定資産等に資金を留保している場合もあるため、 必ずしもこの比率が低くなると資金繰りに窮しているとは限らないので留意が必要です。
総負債比率 この比率は一般的に低いほど望ましく、100%を超えると負債総額が資産総額を上回る状態、いわゆる債務超過であることを示します。
負債比率 この比率は100%以下で低い方が望ましいとされています。また、比率は総負債比率、純資産構成比率と相互に関連していますが、これらの比率よりも顕著に差を把握することができます。
前受金保有率 この比率は100%を超えることが一般的とされています。比率が100%を下回っている場合、翌年度分の納付金として収受した前受金を前年度のうちから手を付けている場合があり、この状況は資金繰りに苦慮している状態を端的に表しているものと見ることができます。なお、入学前に前受金を収受していない学校ではこの値が高くなる場合があるため、入学前年度における授業料等の納付条件等も確認する必要があります。
退職給与引当特定資産保有率 この比率は一般的には高い方が望ましいとされています。ただし、学校法人によって、特定資産を形成せず現金預金・有価証券等の形で保有している場合もあり、この比率が低い場合は退職給与引当金の財源をどのように確保しているか、学校法人の状況を念頭に置いて評価する必要があります。
基本金比率 この比率は100%が上限であり、100%に近いほど未組入額が少ないことを示しています。仮に100%である場合でも繰越事業活動収支差額において支出超過となっている場合、累積した支出超過が基本金を毀損していることとなるため、繰越事業活動収支差額の状況も併せて評価する必要があります。
減価償却比率 資産の取得年次が古いほど、又は耐用年数を短期間に設定しているほどこの比率は高くなります。 また、設立から間もない学校法人では固定資産の償却が開始したばかりであるため、特に低い値となります。
積立率 学校法人の経営を持続的かつ安定的に継続するために必要となる運用資産の保有状況を表します。一般的には比率は高い方が望ましいが、学校法人の将来計画において部門の規模縮小や廃止等が予定されている場合にはその分の施設設備の取替更新等が不要となるため、算定式から不要分にかかる要素を除外して試算してみる等、各学校法人の状況に応じた試算を併用することも比率の活用の上では重要です。

(参考文献)
学校法人会計基準改正に伴う財務比率の変更について(日本私立学校振興・共済事業団)

以上

(永和監査法人 公認会計士 芦澤宗孝)


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