前回は公認会計士による学校法人特有の不正リスクの把握方法について解説しました。そのリスクを「不正な財務報告」と「資産の流用」とに区分し、前者については、理事の業務執行に対する理事会による監督や監事による監査等の適切なガバナンスを構築すること、また後者については、内部統制の不備に基因する場合が多いため当該リスクを防止又は発見する上で有効な内部統制を構築することが重要である点について理解されたかと思います。最終回となる今回は、学校法人における不正会計で頻発する寄付金及び教材料等(預り金)に係る不正とその対応について解説します。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。
1. 保護者等から収受する寄付金及び教材料等(預り金)の取扱い
本項「学校法人における不正会計」1回目では、任意団体(周辺会計)において寄付金名目で徴収した資金について多額の使途不明金が発生した事件や生徒から必要以上の「教材費」などを徴収し、余剰金を「隠し口座」に不正にプールしていた事件を紹介しました。これら不正事例に関して文部科学省は、学校法人の教育研究に直接必要な経費に充てられるべき寄付金及び保護者等から徴収している教材料等の取扱いについて、平成27年3月31日付けで26高私参第9号「学校法人における寄付金等及び教材料等の取扱いの適正確保について(通知)」を各都道府県知事に対して発出し、所轄学校法人に対して、引き続き適切な指導がなされるよう求めました。
当該通知は、一部の学校法人において、教育研究に直接必要な経費に充てるべき寄付金及び保護者等から徴収している教材料等について、不適切な取り扱いが行われている実態が発生したことに伴い、学校法人が保護者等関係者から教育研究に直接必要な経費に充てるために受け入れた寄付金等は、すべて学校法人が直接処理し、学校法人会計の外で経理することなどがないよう改めて求めています。
また、教材料等の取扱いについても学校法人会計基準の趣旨にのっとって適切に処理されるよう求めるとともに、新学校法人会計基準が平成27年4月1日から適用となることも踏まえ、従来からの慣行にとらわれることなく、会計処理の全般にわたり、必要に応じて点検や改善を行うほか、内部監査機能を強化するなど経理の適正を期すよう求めています。
文科省は、保護者等関係者からの寄付金等の取扱いについて、平成14年10月1日付けで通知した「私立大学における入学者選抜の公正確保等について」を留意的に掲載し、その趣旨に沿った寄附金収受に関する管理運営を確保する必要があると注意喚起しています。また、管理運営の不適正が認められる場合等には、私立大学等経常費補助金について私立学校振興助成法、私立大学等経常費補助金交付要綱及び取扱要領の規定にのっとり厳正な措置を講ずるものである点留意的に記載しています。当該通知によれば、寄付金の収受と入学者選抜の実施に係る適切な管理運営を行う上で以下事項が遵守される必要があります。なお、特に重要な部分は、「下線」を付して強調しました。
- 入学者選抜の公正確保
(1) 入学者の選抜に当たっては、合否判定等基本に係る部分について学長及び教授会が実質的に責任を果たし得る体制を確立し、関係法令等の規定に基づき適正な手続きにより厳正に行うとともに、これらに関する学内規程の整備を図ること。
(2) 大学教育を受けるにふさわしい能力、適性等を備えた者を公正かつ妥当な方法により選抜し得るよう、合否判定基準の明確化その他選抜方法の改善に努めること。
(3) 合格発表は、合否判定後速やかに行い、入試情報の漏えいを防止するなど、入学者選抜の適正な実施に努めること。
(4) 合格発表前に個別に保護者等関係者と接触するなど、いやしくも入学者選抜の公正確保に疑惑を招くような行為は厳に慎むこと。
(5) 繰り上げ合格者に係る合格発表方法及び入学手続期日等入学手続きに関する事項について、学生募集要項に記載するなどによりあらかじめ公表すること。 - 入学に関する寄附金、学校債の収受等の禁止
学校法人及びその関係者は、当該学校法人が設置する私立大学への入学に関し、直接又は間接を問わず、寄附金又は学校債を収受し、又はこれらの募集若しくは約束を行わないこと。
なお、入学に関する寄附金又は学校債の収受等により入学者選抜の公正が害されたと認められるときは、私立大学等経常費補助金を交付しない措置を講ずるものであること。 - 学生の負担軽減
(1) 学生納付金については、徴収の必要性を明確にするとともに、その額の抑制に努めること。 また、学生納付金については、すべて学生募集要項に明記すること。
(2) 学生の負担軽減を図るため、学校法人独自の奨学事業や学生納付金の減免又は分割納入等の措置を積極的に講ずるよう努めること。 また、これらの措置の具体的内容を学生募集要項に明確に記載すること。 - 経営の健全化等
(1) 経営の効率化等により運営に要する経費の節減に努めるとともに、適切な収入の確保等により収支の均衡を図り、経営の健全化に努めること。
(2) 多額な経費を必要とする施設の拡充又は設備の整備については、長期的な資金計画の下に行うこととし、学生に一時的な高額の負担を負わせないようにすること。 - 経理の適正処理と財務状況の公開
各学校法人は、その受け入れた寄附金等を学校法人会計の外で、経理することなどのないよう、真実な内容をもれなく、明瞭に財務計算に関する書類に表示するとともに、内部監査機能を強化するなど経理の適正を期すること。 また、財務状況の公開に努めるとともに公開方法や公開内容についても改善を図ること。 - 任意の寄附金、学校債の取扱い
(1) 寄附金又は学校債の募集開始時期は入学後とし、それ以前にあっては募集の予告にとどめること。
なお、募集の開始前に応募の約束と受けとられるような行為をすることは厳に慎むこと。
(2) 寄附金又は学校債を募集する場合は、学生募集要項において、応募が任意であること、入学前の募集は行っていないことなどを明記し、適切な実施に努めること。 また、寄附金又は学校債の募集趣意書等において、応募が任意であること、その使途、その他必要事項を明記すること。
(3) 入学者又はその保護者等関係者から寄附金又は学校債を募集する場合は、その額の抑制に努めること。
(4) 学校債については十分な返還の見通しをたてたうえで募集を行うものとし、学校債の引受者に対して寄附金への変換を引受け時に約束させ、又はその後においても特別の事由のある場合を除くほか変換を要請しないこと。
(5) 入学者又はその保護者等関係者から大学の教育研究に直接必要な経費に充てられるために寄附金又は学校債を募集する場合は、後援会等によらず、すべて学校法人が直接処理すること。
2. 在学生保護者等関係者から支払われる金銭等に関する文科省による実態調査
文科省は、学校法人や私立学校の諸活動に対して、在学生保護者等関係者から支払われる金銭や在学者等関係者に対し負担を求めているものに係る学内の取扱いや会計処理等の実態を把握するため、文科省所轄学校法人666法人を対象として平成27年5月29日から7月17日を調査期間とした調査を行いました。
当該調査の結果は、平成27年12月24日付け27高私参第13号「学校法人における会計処理等の適正確保について(通知)」の別添「学校法人における会計処理の実態調査」の結果について」として公表されました。
(1) 調査結果の概要
文科省による実態調査の結果、在学生保護者等関係者から支払われる金銭や在学生保護者等関係者に対し負担を求めているものについては、各項目にばらつきがあるものの、おおむね学校法人の帳簿に記載されていることが分かりました。なお、帳簿に記載すべきかどうかについては、収納される金銭の徴収根拠や契約の実態について個別に精査した上で判断されるべきものであり、帳簿に記載していないことのみをもって直ちに不適切な会計処理等に該当するものでないことを当該調査結果において付け加えています。
ただし、実態調査2(1)では、大学・短期大学・高等専門学校において帳簿記載されていないケースとして、以下が挙げられています。
≪大学・短期大学・高等専門学校≫
① 在学生保護者等関係者
- 寮費やスクールバス代等について、在学生が直接業者へ支払う場合、在学生が担当教職員に実費を支払う場合において帳簿に記載されていないケースがある。
- 資格試験、検定試験等の各種受験料や教材料等については、実費であることや経過的な金銭の受取であることを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
- 指定物品、制服・体操着代等については、在学生・保護者が業者から直接購入することを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
- ゼミやクラブ活動費については、それらの組織(グループ)内で徴収し、当該組織(グループ)の構成員のために使用することを理由に帳簿に記載されていないケースが多い。
- 同窓会費、後援会費、父母会費等については、学校とは別団体であることから、在学生・保護者が当該団体へ直接支払うことを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
② 取引業者、一般利用者等
- 公開講座受講料について、受講生が直接業者に材料費を納付している場合がある。
また実態調査2(2)では、高等学校、中等教育学校、中学校において帳簿記載されていないケースとして、以下が挙げられています。
≪高等学校、中等教育学校、中学校≫
① 在学生保護者等関係者
- 寮費やスクールバス代等については、在学生が直接業者へ支払う場合や在学生が担当教職員に実費を支払う場合等において帳簿に記載されていないケースがある。
- 資格試験、模擬試験等の受験料や学年費・学級費、教材代については、実費を徴収することを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
- 指定物品、制服、体操着代等については、在学生・保護者が業者から直接購入することを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
- クラブ活動費については、それらの組織(グループ)内で徴収し、当該組織(グループ)の構成員のために使用することを理由に帳簿に記載されていないケースが多い。
- 同窓会費、後援会費、父母会費等については、学校とは別団体であることから、在校生・保護者が当該団体に直接支払うことを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
② 取引業者、一般利用者等
- 貸付金の回収については、学校法人とは別の団体(貸主)からの依頼により学校が代理回収している場合であることを理由に帳簿に記載されていないケースがある。
なお、実態調査の別添「学校法人における会計処理等の実態調査結果一覧(大学・短期大学・高等専門学校)」によると、帳簿記載割合(学校法人の帳簿に記載している学校数÷学校が徴収や負担を求めている学校数)が低い項目として以下が挙げられています。
- 教材(副教材)料:43.4%
- 生協出資金:14.0%
- 制服・体操着・作業着等代:17.4%
- ゼミ・研究室等による合宿研修等の費用:16.1%
- クラブ活動費(クラブ合宿遠征代金等を含む):3.7%
これらの項目以外は、帳簿記載割合が概ね80%以上となっていました。
(2) 調査結果を受けた留意事項
調査結果を受けて、各学校法人に対して下記の事項に留意し、必要に応じて取扱いの見直しを行うなど、会計処理等について適正を期すべきであると当該通知において記載しています。
- 学校法人に対して、在学生保護者等関係者から支払われる金銭等については、学校法人会計基準の趣旨にのっとり、学校法人が管理する会計帳簿に適切に記載すること。なお、会計帳簿に記載すべきかどうかについては、収受した金銭の徴収根拠や契約の実態について個別に精査した上で判断すること。
- 教職員等が実費や経過的な金銭を徴収する場合であっても、学校法人が収受した金銭であることから、学校法人の責任において適切な会計処理を行うこと。
- 学校法人において適切な管理がなされない場合、紛失、盗難、使途不明又は担当者等による私的流用等の不適切な取扱いが生じるおそれがあるため、管理体制を確立すること。
学校法人会計外であったとしても、保護者等と業者間で直接的に金銭のやり取りがあったことで事後的にトラブルとなった場合には、学校法人の管理監督責任を問われる事態に発展しかねませんし、また保護者等と業者の間を特定の理事や担当教員等が取り持つことで、不正に金員をキックバックする事態も想定されます。教材料等の会計処理の見直しにあたっては、上記した留意事項や「実態調査」の結果を十分検討しておく必要があります。
なお、文科省による調査結果である「学校法人における会計処理等の実態調査結果一覧」については下記を参照ください。
【PDF:学校法人における会計処理等の実態調査結果一覧(大学・短期大学・高等専門学校)】
3. 任意団体(周辺会計)に対する公認会計士等による会計監査
後援会等の任意団体(周辺会計)については、学校法人とは別の団体であるため、公認会計士又は監査法人(以下、「公認会計士等」とします。)による監査範囲には原則として含まれず、寄付金募集がこれら団体を通じて行われたとしても、これらの団体が当然に監査の対象になるというものではありません。しかし、学校法人が収受・計上すべき寄付金を後援会等が収受していないかという観点から、公認会計士等が必要と認めた場合には後援会等から学校法人への資金の流れだけでなく、寄付者から後援会等への資金の流れについても、後援会等の同意・協力を得て監査の対象とすべきものであると考えます。この場合、後援会等の会計全体を監査範囲とすることを当然に意図したものではありませんので、その会計の全体を監査範囲とするか、その一部を監査範囲とするかどうかは、後援会等の態様及び活動状況等の実情に応じて、個々の公認会計士等の判断に委ねられているものと考えます。
公認会計士 津村 玲