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学校会計のチカラ
学校法人における不正会計 3

前回は、不正の発生を未然に防止するために必要となる学校法人におけるガバナンスについて解説しました。私立学校法上規定されている理事会など各機関の特徴と理事を監査する立場にある監事機能の問題点について理解されたかと思います。今回は、学校法人における不正について公認会計士等がどのような視点で不正リスクの把握とその対応を行っているかについて解説します。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。

1. 公認会計士等による学校法人特有の不正リスクの把握

私立学校法は、公認会計士又は監査法人(以下、「公認会計士等」とする。)といった学校法人外部者による監査に関する定めを設けていませんが、私立学校振興助成法では、公認会計士等による学校法人に対する監査の定めがあり、理事や教職員などによる不正の発見について積極的な関与が求められています。すなわち、公認会計士等が監査を行うに当たり行為規範とされている「監査基準」(平成22年3月26日最終改訂 企業会計審議会)において、「監査人は、監査の実施において不正又は誤謬を発見した場合には、経営者等に報告して適切な対応を求めるとともに、適宜、監査手続を追加して十分かつ適切な監査証拠を入手し、当該不正等が財務諸表に与える影響を評価しなければならない。」(第三 実施基準 三 監査の実施6)と定めており、公認会計士等は、不正を識別し、又は不正が存在する可能性があることを示す情報を入手した場合は、これらの事項を速やかに理事や監事へ報告することが求められています。

この点、公認会計士等はその監査にあたり、内部統制を含む学校法人とその環境を理解するため、学校法人において故意又は過失により計算書類を誤るリスクを評価する手続を実施します。そして当該手続の一環として、不正による重要な計算書類上の誤りが生じるリスクを識別するための情報を入手します。さらに、入手した情報が、不正に関与しようとする動機やプレッシャーの存在を示しているかどうか、又は不正を実行する機会を与える事象や状況(以下「不正リスク要因」という。)の存在を示しているかどうかを検討します。
ここで、公認会計士等はどのような視点で学校法人特有の不正リスク要因を把握しているかについて「不正な財務報告」と「資産の流用」とに分けて例示します。なお、この公認会計士等による不正リスクの把握方法は、他の会計監査を職務とする監事や内部監査人にとっても大変示唆に富むものであると考えますので参考にして下さい。

(1) 不正な財務報告による計算書類上の誤りに関するリスク要因

① 動機・プレッシャー
次のような動機やプレッシャーが不正な財務報告を行う要因となります。

  • 国や地方自治体の政策により補助金が削減されることがある。
  • 入学者の減少により経営状況が悪化し、また、経営状況の悪化が更に入学者の減少を招いたり、不利な融資条件を招いたりすることとなる。
  • 大学等の新増設に係る寄附行為変更の認可申請に当たり、審査基準を満たさないと寄附行為変更を伴う新増設が認可されないこととなる。
  • 有価証券やデリバティブ取引に巨額の含み損が生じている場合、運用担当者又は理事の責任を問われることとなる。
  • 利害関係人に対する財務情報の閲覧義務が課せられたことや、さらに、財務情報を広く公開することが社会的に要求されるようになり、財務情報の比較が容易になったこと。

② 機会
次のような要因が、不正な財務報告に関わる機会をもたらすこととなります。

  • 通常の取引条件とは異なる重要な関連当事者(理事自身や理事が支配している会社など)との取引が存在する。
  • 理事が、関連団体を通じて、入学者又はその関係者から寄付金を強要できるような影響力を有している。
  • 理事長の権限が過大であるため、理事会、監事及び評議員会が十分
  • 監事の監査が十分に機能しておらず、効果的でない。
  • 評議員会が十分に機能していない。

③ 姿勢・正当化
次のような理事の姿勢が、不正リスク要因となります。

  • 理事が内部統制を無視し、意図的な操作を行っている。
  • 理事が個人の取引と学校法人の取引とを混同している。
  • 理事が自己又は自己が支配している会社等の利益のために学校法人との取引を利用している。
  • 関連当事者(理事や理事が支配している会社など)との取引を注記事項として開示することに対し、理事が消極的である。

(2) 資産の流用による計算書類上の誤りに関するリスク要因

① 動機・プレッシャー
次のような要因がある場合に、現金等の横領しやすい資産を流用する動機・プレッシャーとなります。

  • 理事や教職員に個人的な債務がある場合
    (ア) 個人の借入金の担保に学校法人の資産を提供しようとする。
    (イ) 理事が支配している建設会社に対し、工事費の水増し請求を行わせようとする。
  • 教授等の研究職に研究費が不足している又は過大であるという認識がある場合
    (ア) 研究費や補助金を不正に受給しようとする。
    (イ) 受給した研究費や補助金を私的に流用しようとする。

② 機会
次のような不適切な内部統制の状況が、資産の流用の可能性を増大させることとなります。

  • 職務の分離又は内部牽制が不十分である。
  • 資産を管理する教職員に対する理事者の監督が不十分である。
  • 理事者又は教職員の旅費など経費の精算に関して監視が不十分である。
  • ITに関する理事の理解が不十分であり、ITを不正に操作できる環境にある。
  • 研究費の申請や使用について研究当事者に権限が集中し、当事者以外の者の管理が不十分である。
  • 内部通報制度がなく、不正の兆候や事実が理事や監事に伝わらない。

③ 姿勢・正当化
次のような姿勢が資産の流用を招く要因となります。

  • 理事が資産の流用に関するリスクを監視又は軽減しようとしない。
  • 理事が資産の流用を防止するための内部統制を無視もしくは内部統制の不備を是正しない。
  • 研究成果を上げるためなら、内部規定に従わずに研究費の受給や資産の流用をしてもかまわないと考える。
  • 法令遵守に対する考え方が疎かになり、倫理的行動に対する規範を整備しようとしない。
2. 学校法人における不正リスクの例示

学校法人における不正リスクについて、「不正な財務報告」と「資産の流用」とに区分して以下具体的に例示します。なお、これらの例示は、必ず計算書類の重要な記載誤りの原因になる不正であると断定するものではないこと、また、これらが計算書類の重要な記載誤りの原因のすべてではないことに留意する必要があります。
また、理事等が内部統制を無視することで「不正な財務報告」に関する不正が生じている場合には、公認会計士等は内部統制に依拠した監査が不能となるため監査の実効性が著しく低下します。したがって、理事の業務執行に対する理事会による監督や監事による監査等が有効に機能していることが理事による「不正な財務報告」を防止又は発見する上で重要であると考えられます。一方、「資産の流用」に関する不正は、内部統制の不備に起因する場合が多いため、不正リスクとともに当該リスクを防止又は発見する上で有効と考えられる内部統制についても例示しました。

(1) 「不正な財務報告」に関する不正リスク

時価のある有価証券で巨額の含み損のある銘柄について、理事が意図的に時価のない有価証券に含めて表示する。

項   目 不 正 リ ス ク
寄付金の簿外処理 理事が意図的に入学に関する寄付金を後援会等で収受することにより、学校会計から除外する。
補助金の不正受給

経常費補助金を不正に受給するため次のような不正処理を行う。

  • 補助金交付要件を満たすため、学生数を過大又は過少に算出し、学生生徒等納付金を過大又は過少に計上する。
  • 補助金対象外の支出を補助対象項目に含めて計上する。
  • 補助金対象となる教職員数を過大に算出する。
大学等の新設・増設の財産目録に係る計算書類の記載誤り

大学等を新設・増設する場合に係る寄附行為変更の認可申請においては、負債率や負債償還率等の審査基準をクリアする必要がある。理事は、このような基準をクリアすることが困難な場合には、財産目録において、次のような誤りを意図的に行う。

  • 本来負債計上すべき項目を寄付金収入や現物寄付金として処理する。
  • 本来経費処理すべき項目を資産として処理する。
金融機関からの資金調達を確保するための計算書類の記載誤り

金融機関からの資金調達を確保するために、理事が意図的に以下の経理操作を行う。

  • 修繕費として処理すべき項目を固定資産の取得として処理する。
  • 減価償却資産の耐用年数を本来の年数より長くする。
  • 本来計上すべき徴収不能引当金を計上しない。
補助活動に係る収支の預り金処理 スクールバス等の補助活動を実施しているにもかかわらず、消費税等の税負担を避けるため、理事が後援会により実施しているものとして預り金処理を行い、その収支差額を寄付金として受け入れた形で処理する。
有価証券の貸借対照表価額に係る計算書類の記載誤り 時価が著しく下落し、回復の見込みが不明の有価証券について、資金運用担当者が経理担当者に対して意図的に評価に必要な報告を行わない。その結果、当該有価証券について適切な評価減を行わず、取得原価のままで貸借対照表に記載する。
有価証券の時価情報に係る計算書類の記載誤り 時価のある有価証券で巨額の含み損のある銘柄について、理事が意図的に時価のない有価証券に含めて表示する。
関連当事者との取引の注記事項からの除外 関連当事者との多額の取引について、理事が意図的に注記事項から除外する。

(2) 「資産の流用」に関する不正リスク

項  目 不 正 リ ス ク 内 部 統 制
寄付金の流用 寄付については財務部を通して行われる規則となっているが、運動部の保護者からの寄付金を運動部担当の教員が受け取り、個人的な懇親会の費用等に流用する。
  • 寄付金はすべて財務部を通して収受する。
  • 寄付金の収受は、連番管理された寄付申込書や寄付受領書により行う。
補助金の流用 申請担当者が補助金を不正に受給申請し、収受した補助金を他の用途又は私的に流用する。

不正受給に対して

  • 申請時点で担当者以外の者が、申請内容の検証を行う。
  • 申請時点で一定の承認手続を行う。

流用に対して

  • 担当者以外の者が、機器備品等の発注や検収を行う。
  • 支出内容については、担当者以外の者が、実績報告と証憑書類を照合する。
施設設備利用料の流用 事務処理が本部集中の場合には、各学部学科の末端の事務処理まで管理できない場合が多い。また、事務処理が学部別に行われている場合でも、各学部での事務処理能力に格差が生じ、内部統制が十分でない場合がある。その結果、担当者が音楽ホール、体育館、教室又は楽器などの機器備品の利用料を報告せず私的に流用する。
  • 施設設備の貸出事務と収納業務についての職務分掌を行う。
  • 施設設備利用料の収受は、連番管理された施設設備利用申請書や領収書により行う。
補助活動収入の流用 補助活動収入の収支管理については担任や事務職員担当者に任されている場合がある。その結果、担当者が現金を一時的に流用する。
  • 年度末の収支報告時のみならず、年度内においても、担当者以外の者が定期的に帳簿と証憑書類を照合する。
受託事業収入等の簿外処理 特別授業に係る収支や研究室で受託した受託事業収入等、学校法人に帰属すべき収支が担当者だけで処理されることにより簿外となり、流用する。
  • 特別授業については、名簿を作成し、当該名簿と受領金額を照合する。
  • 受託事業に係る契約は、学校法人名で行う。
  • 受託事業の収支事務は、財務部で行う。
  • 収支内容については、担当者以外の者が帳簿と証憑書類を照合する。
学生アルバイト代の架空請求 教授が自分のゼミ学生を研究用のアルバイトに採用したものとしてアルバイト代を架空請求し、他の研究もしくは私的に流用する。
  • 研究費の使用について、発注、検収及び支払の職務分掌を行う。
  • アルバイトに係る申請書類は、学生本人が人事部へ提出する。
  • 財務部において研究費予算の執行管理を行う。
消耗品の架空発注 消耗品の購入において、購買担当者が業者と共謀して架空発注を行い、その代金を業者と購買担当者が不当に受け取る。
  • 消耗品の発注、検収及び支払の職務分掌を行う。
  • 消耗品の購入について、一定の承認手続を行う。
  • 購入先の選定においては、定期的に相見積りをとる。
リース契約の偽装 管財担当者がリース契約書を偽造し、リース料を着服する。
  • リース契約の締結について、一定の承認手続を行う。
  • リース資産について、管理台帳に登録し、定期的に実地調査を行う。
工事代金の水増しによる着服 理事が社長を兼任する建設会社に大規模な校舎建築工事を発注し、かつ、同社から設備の購入を行うに当たり、相見積りをとらずに理事の独断で契約し、理事会の承認決議は事後的に受ける。その結果、理事者と業者の結託により不当に高い価額で校舎を建設し、設備についても不当に高額で購入することにより、理事と業者の双方で差額を着服する。
  • 重要な取引について、理事会で事前に承認する。
  • 建設工事に係る請負業者決定等について、入札基準や相見積入手基準等を明確にし、契約額や建設業者を合理的に決定する。
  • 契約額の適切性について、第三者である専門家に評価を依頼する。
  • 理事長との利益相反行為については、特別代理人の選任手続を行う。
資産購入代金の水増し 購買担当者が施設設備等の固定資産や薬品等の棚卸資産について、通常の購入金額よりも高額で購入もしくは多量に購入する。これにより、リベート(キックバック)の受領や購入品の横流し等をする。
  • 資産の購入について、発注、検収及び支払の職務分掌を行う。
  • 資産の購入について、一定の承認手続を行う。
  • 購入先の選定においては、定期的に相見積りをとる。
現金の流用 自動販売機の現金を常に補充しなければならないところ、経理担当者と出納担当者が長期間同一であることから、自動販売機の現金を一時的に流用する。
  • 現金の収受について、経理事務と収納業務との職務分掌を行う。
  • 定期的に現金実査を行い、上位者がその結果を確認する。
貸付金の流用 理事会の承認を受けずに理事が財務部の責任者に指示し、学校法人の資金を自分が役員をしている会社へ運転資金として貸し付けるが、当該取引を仮払金支出として処理する。
  • 重要な資金移動について、一定の承認手続を行う。
  • 理事長との利益相反行為については、特別代理人の選任手続を行う。
預り金とリベートの簿外処理 購買担当者が教材の共同購入費用として生徒から集金し、数か月後に支払う場合に、預り金計上せずに簿外処理とする。取引先は当該学校法人との取引として認識しているため、購買担当者は共同購入に当たって数量に応じたリベートを受け取るが、簿外処理し生徒に割引額を返金しない。
  • 外部からの入金は、すべて学校会計を通して処理する。
周辺会計における流用 後援会等の周辺会計における預り金は、その収支管理について、周辺会計事務担当者に一任されている場合が多い。その結果、担当者が現金を私的に流用する。
  • 年度内においても、担当者以外の者が定期的に帳簿と証憑書類を照合する。
科学研究費補助金の流用 科学研究費補助金の枠内では担当研究者の自由裁量の余地が大きいため、研究費が不足している場合等には、架空の支出を偽装する等の方法で当該補助金を不正に受給し、他の研究又は私的に流用する。

不正受給に対して

  • 申請時点で担当者以外の者が、申請内容の検証を行う。
  • 申請時点で一定の承認手続を行う。

流用に対して

  • 担当研究者以外の者が、機器備品等の発注や検収を行う。
  • 支出内容については、担当研究者以外の者が帳簿と証憑書類を照合する。

(「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」(平成19年2月15日 文部科学大臣決定)を参考にする。)

[参 考]
監査基準委員会報告書240「財務諸表監査における不正」を学校法人監査に適用する場合の留意点
(日本公認会計士協会学校法人委員会研究報告第10号)

公認会計士 津村 玲


とは

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