先週は、第4号基本金について解説しました。第4号基本金は、他の基本金と異なり、具体的に基本金の対象資産を特定していないものの、第4号基本金に相当する資金の保有状態を計算書類に注記することを求め、現実的な資金の保有を担保させています。今回は、基本金の「取崩し」について全2回にわたり解説します。基本金の組入れ対象額と取崩し対象額は、最終的に基本金ごとに相殺され、組入れか取崩しかの判断を行いますので、基本金の取崩しについても十分に理解することが必要です。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。
従来、学校法人が設置する学校を運営していく上で少子化の進展など近年の社会経済情勢の変化に伴ってキャンパス統合や資産の整理・合理化が進められても、基本金は校地や校舎及び設備などの必要な資産を継続的に保持するという趣旨を厳格に適用し、学校法人が設置する学校や学部、学科の廃止又は定員の減少など量的規模が縮小される場合を除いて基本金の取崩しは禁止されていました。また、固定資産の取替更新時において、当初の取得価額より少ない金額で更新することができた場合でも、基本金は「諸活動の一部又は全部の廃止」を伴わないため取り崩すことができず、繰り延べを行うほかありませんでした。このため、基本金の繰延高に見合った固定資産が追加で取得されない場合、繰延高が何年も解消されず、必要な基本金を維持すべき水準と実際の組入済の額との間に乖離が生じ、学校法人の経営状況を適正に表示しているとは言えない状況でした。
このような状況下、平成17年3月に学校法人会計基準が改正され、学校法人の諸活動に見合った会計処理の合理化、また、財政及び経営状況の明確化を図るため基本金の取崩し要件が緩和され、従来の諸活動の一部又は全部の廃止以外にも「経営の合理化」や「将来計画等の見直し」を行った場合にも基本金を取り崩すことができるようになりました(17文科高第122号 平成17年5月13日)。
(基本金の取崩し)
第31条 学校法人は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該各号に定める額の範囲内で基本金を取り崩すことができる。
- その諸活動の一部又は全部を廃止した場合 その廃止した諸活動に係る基本金への組入額
- その経営の合理化により前条第1項第1号に規定する固定資産を有する必要がなくなった場合その固定資産の価額
- 前条第1項第2号に規定する金銭その他の資産を将来取得する固定資産の取得に充てる必要がなくなった場合
その金銭その他の資産の額 - その他やむを得ない事由がある場合 その事由に係る基本金への組入額
上記のとおり、
- 基本金は諸活動の全部又は一部を廃止した場合
- 経営の合理化により第1号基本金の対象固定資産の価額を維持する必要がなくなった場合
- 将来計画等の見直しなどにより施設整備計画を変更又は廃止したため第2号基本金の金銭
その他の資産を将来取得する固定資産の取得に充てる必要がなくなった場合 - 第3号基本金の金銭その他の資産を奨学事業等に充てる必要がなくなった場合等にも基本金を取り崩すことができることになりました。ただし、基本金を取り崩す場合には、教育の質的水準の低下を招かないよう十分に留意する必要があります。
基本金は、学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持しなければならない金額ですので、学校法人の定める適正な手続きを踏まえ、その取崩しが安易に行われてはなりません。このため、基本金を取り崩す際には、理事会等の承認が必要となる点はいうまでもありません。また、平成17年3月の基準の改正は、基本金の取崩し要件を緩和したと同時に基本金の取崩し限度額を定めたものでもあり、第31条各号に該当する場合は、資産を他に転用するなどして継続的に保持する場合のほかは基本金の取崩しの対象としなければなりません。なお、第31条第4号の「やむを得ない事由」とは、地方公共団体等による土地収用の場合など、学校法人の自己都合による資産の処分ではなく外的要因によるものが該当する点にご留意ください。
(公認会計士 芦澤 宗孝)