今週の学校会計のチカラは、給与や報酬料金等に関する源泉所得税について、学校法人においてよくある事例を中心に解説します。
Q
1. 表彰金
学内表彰規程により表彰制度を設け、年に1回、次に掲げる事由に該当する教職員を表彰し、表彰金(金銭)を授与しています。給与として課税する必要がありますか?
① 皆勤表彰 1万円
② 業務優秀表彰 5万円
A
1年間無欠勤であることや業務内容が優秀であることを理由として授与する表彰金は、教職員の通常の職務の範囲内の行為に対する対価であり臨時の給与を支給するのと同様であることから、この表彰金は、いずれも給与所得として課税する必要があります。
また、この表彰金を金銭以外のもの(商品券、図書カード等の金券やその他の物品)で支給した場合であっても、経済的利益を供与しているため、同様に給与所得として課税する必要があります。
ただし、大学教授等が支給を受ける研究費、出版助成金、表彰金等で一定の要件を満たすものについては、給与所得としての源泉徴収を行う必要がないものもあります(Q5の事例を参照して下さい。)。
Q
2. 永年勤続記念品
学内表彰規程により、毎年の創立記念日に、次に掲げる事由に該当する教職員等を表彰し、記念品を授与しています。給与として課税する必要がありますか?
① 勤続10年以上の者で5年ごとに、勤続年数に応じて1~5万円相当の記念品を支給
② 永年勤続者が役員である場合には、①に比べ支給基準を高額とする規定があること
③ 記念品の一部にカタログから自由に選択できるものが含まれていること
④ 創立50周年にあたることから特に功労のあった旧役員に特別功労金を贈呈すること
A
永年勤続表彰は、記念品の支給や旅行・観劇等への招待で、その勤続期間等に照らし社会通念上相当で認められるものを、おおむね10年以上勤続者を対象として5年以上の間隔をおいて支給されるものであれば、課税しなくてよいものとされています。したがって、上記の①については、課税する必要はありません。
ただし、永年勤続表彰で役員であるという理由により支給基準に格差が設けられている場合には、非課税とされる趣旨にそぐわないものであり、上記の②については、役員分の全額が給与所得として課税されます。
また、永年勤続表彰で非課税とされるものは、記念品の支給等の現物支給に限られますので、金銭を支給する場合や商品券等の現金と同等のものは課税の対象となりますので、上記の③については、カタログから自由に記念品を選択するのが金銭支給と同様の効果をもたらすものと考えられ、給与所得として課税されます。
なお、上記の④のように、過去に退職をした者に対する支給は、雇用関係にある者への利益の供与ではないため、たとえ金銭を支給した場合であっても一時所得として取り扱うこととなり、源泉徴収の対象とはなりません。
Q
3. 慶弔金
学内慶弔規程により、次に掲げる事由に該当する役員や教職員に祝金、見舞金、香典等を支給しています。給与として課税する必要がありますか?
① 結婚祝金(本人)3万円
② 災害見舞金(災害の程度により)3万円~10万円
③ 香典(配偶者または1親等の親族)3万円
A
役員や教職員の慶弔に際し支給する金品は、その金額が支給を受ける人の地位などに照らして社会通念上相当と認められるものであれば、課税しなくてよいものとされています。具体的に○○万円までは課税を要しないと明示されているわけではありませんが、社会通念上相当と認められる金額を慶弔規程等に定め、一部の者のみでなく、すべての役員及び教職員に適用があるのであれば、課税する必要はありません。
Q
4. 研修費用の負担
来年度に新規採用予定の事務職員の全員を外部研修機関で行われる社会教養講座に参加させることとなりました。また、新たに経理事務を担当することとなった事務職員が外部の専修学校で行われる経理実務研修に参加することとなりました。これらの研修の受講費用の全額を当学園で負担する予定です。これらの負担金額については、その職員の給与として課税する必要がありますか?
A
使用者(学校法人)が自己の業務遂行上の必要に基づき技術や知識の習得等をさせるための研修会・講習会等の出席費用として支給される金品で、一部の者のみを対象としているものでなく、費用が適正なものは、課税されません。
したがって、これらの研修費用の負担については、課税する必要はありません。
Q
5. 大学教授等に支給する研究費等
大学に所属する教授・准教授・講師・助教・助手等に対して、研究費・研究奨励金・出版助成金・表彰金等を支給していますが、これらの教授等に支給する研究費等について、給与等として課税する必要がありますか?
A
所得税個別通達(昭和33年8月20日 直所2-59「大学の教授等が支給を受ける研究費等に対する所得税の取扱について」)に記載されている取扱いをまとめると、次のとおりです。
① 個人研究費、特別研究費、研究雑費、研究費補助等の名目で、教授等の地位又は資格等に応じ、年額又は月額により支給されるもの
… その教授等の給与所得として課税が必要です。
② 上記①の個人研究費等のうち、大学がその教授等から費途の明細を徴し、かつ、購入に係る物品が全て大学に帰属するものである等、大学が直接支出すべきであったものをその教授等を通じて支出したと認められるもの
… 課税する必要はありません。
③ 研究奨励金等のように、大学から与えられた研究題目又は教授等の選択による研究題目のために必要な金額として、あらかじめ大学から支給されるもの
… 上記①及び②の個人研究費等に準じて同様の取扱いをすることとなります。
④ 出版助成金等のように、教授等が研究成果を自費出版しようとする場合に大学から支給されるもの
… その出版の実態に応じ、その教授等の雑所得又は事業所得の収入金額となります。
⑤ 表彰金等で、学術上の研究に特に成果を挙げた教授等又は教育実践上特に功績があった教授等を表彰するために大学から支給されるもの
… その教授等の一時所得とされます。
したがって、上記の①に該当する個人研究費等や③に該当する研究奨励金等は、給与所得として源泉徴収が必要になりますが、④又は⑤のような給与所得以外の所得に該当するものは、給与所得としての源泉徴収は不要です。
Q
6. 研究委嘱者への謝金
研究活動の一環として、研究テーマに関連の深い業界の有識者を対象に研究を委嘱し、毎月1回の意見交換及び研究発表を行っています。この謝礼として出席有識者1名につき1回あたり5万円を支給しています。この意見交換及び研究発表の内容は、雑誌等に掲載されるものではなく原稿料に該当しませんし、10名程度の研究会における発表であり講演料に該当するとも思えないため、源泉徴収は不要と思いますがいかがでしょうか?
A
単発的な集会等における司会者、助言者、研究発表者、パネリスト、出席者等へ支払う謝金は、講演料等に該当せず、源泉徴収が不要と考えられます。
しかし、今回の出席有識者のように、あらかじめ一定期間の委嘱契約が締結されており、それに基づいて謝金が支給される場合には、「国又は地方公共団体の各種委員会の委員手当等」(所得税基本通達28-7)と同様に、給与所得として課税する必要があります。
Q
7. 講演料とともに支払う交通費
当学園主催の講演会の講師を依頼したため、その謝礼として1回あたり5万円を支給しました。なお、この講師は遠方より来校してもらったため、交通費実費相当額(往復の交通機関に要する金額と同額)を計算し、謝礼金とともに現金で講師本人へ支給しました。謝礼金5万円については、所得税法第204条に規定する報酬・料金等のうち「講演の報酬・料金」に該当するものとして、源泉徴収を行いました。一方で、交通費については実費相当額であるため、源泉徴収は行っていません。
A
所得税法第204条に規定する報酬・料金等の性質を有するものについては、たとえ謝礼・賞金・研究費・材料費・車賃・記念品代・酒こう料等の名義で支払われたものであっても、報酬・料金等に含まれるとされています。したがって、交通費実費相当額も講演料の一部と解されますので、源泉徴収が必要となります。
しかし、貴学園が講師の交通費や宿泊費を負担する場合において、講師に支払わず、交通機関・宿泊施設等に直接支払うこととし、その金額が通常必要であると認められる範囲内の金額であるときは、貴学園が負担する交通費や宿泊費について課税する必要はありません。
Q
8. 入学試験の出題料
本年度の入学試験実施にあたり、試験問題の一部については、当学園の大学教授と外部研究機関の研究者にそれぞれ作成してもらいました。当学園教授に支払う謝金と外部研究者に支払う謝金に関する課税上の取扱いを教えて下さい。
A
貴学園とその教授との間には雇用関係がありますので、教授に支払う謝金は給与所得として源泉徴収が必要です。
一方で、外部研究者に支払う謝金は、所得税法第204条に規定する報酬・料金等に該当するか検討が必要ですが、入学試験の問題作成料は、所得税法第204条に規定する原稿料には該当しないため、源泉徴収は不要です。
Q
9. 優秀論文の表彰金
本学園で募集した研究論文のうち学内審査を経た最優秀論文1名に5万円、優秀論文5名に各3万円の表彰金を支給する予定です。なお、この論文の応募資格については特段の制約を設けていないため、学外のみならず学内の教職員や在校生も応募することが可能です。
優秀論文に支払う表彰金に関する課税上の取扱いを教えて下さい。
A
表彰金という名目で支給するものであっても、その内容を勘案しますと支給される金品は所得税法第204条の原稿料に該当するため、原則として源泉徴収の対象となります。
ただし、次のいずれかに該当するもので同一人に対し1回に支払うべき金額が少額(おおむね5万円以下)のものについては、課税しなくても差し支えないものとされています。
① 懸賞応募作品等の入選者に支払う賞金等
② 新聞や雑誌等の読者投稿欄投稿者又はニュース写真等提供者に支払う謝金等
③ ラジオやテレビの視聴者番組投稿者又はニュース写真等提供者に支払う謝金等
今回の表彰金は、5万円以下とされているため源泉徴収は不要です。また、表彰を受ける者が貴学園の教職員であったとしても、雇用関係に基づく対価としての性質は含んでいないため給与所得には該当せず、課税する必要はありません。
Q
10. 司会者への謝礼
学園祭期間中に行った本学園主催のイベントの司会を学園OBである専門の司会者に依頼しました。この司会者に謝礼として支払う5万円について、源泉徴収は必要でしょうか?
A
源泉徴収が必要とされている報酬・料金等は、所得税法第204条に列挙されているものに限られています。司会の報酬は、講演料や出演料に類似していますが、これらに該当するものではありません。したがって、源泉徴収は不要です。
Q
11. 音楽コンクールの審査料
本学園創立50周年記念のイベントで音楽コンクールを開催し、コンクールの審査員は、国内の著名な音楽家に依頼しました。この審査員に審査料として1日あたり10万円を支払いますが、源泉徴収は必要でしょうか?
A
源泉徴収が必要とされている報酬・料金等は、所得税法第204条に列挙されているものに限られています。音楽コンクール審査員の報酬は、映画・演劇・音楽等の出演や演出又は企画の報酬・料金に類似していますが、単なる審査のみであれば、これらに該当するものではありません。したがって、源泉徴収は不要です。
Q
12. 研究員の移籍に伴う契約金
本学園の研究及び指導に参加してもらうため、外部研究所に所属する研究員を招聘することとなりました。この研究員個人に対して移籍に伴う契約金として一時金100万円を支払う必要があるのですが、源泉徴収は必要でしょうか?
A
一定の者に専属して役務の提供をする人が、その一定の者のために役務の提供をすることを約することにより一時に支払いを受ける契約金・支度金・移転料等は、所得税法第204条に規定する契約金に該当し、源泉徴収が必要になります。この契約金には、雇用契約を締結して給与所得者として働くことを予定している者に対するものも含まれます。
したがって、この契約金として支払われる一時金は、源泉徴収が必要です。
( 斎藤総合税理士法人 坂寄 隆 )