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学校会計のチカラ
学校法人のM&A(2)

2月の学校会計のチカラは、学校法人のM&Aを取り上げています。第2週目は、私立学校法上の規定と手続について考えていきます。

1.私立学校法の規定

学校法人における合併は、組織体制への影響や権利義務の変更を伴うため、多くの利害関係者に影響を及ぼすことになります。そのため、私立学校法において合併手続の内容を明文化し、法人内部の承認手続に限らず、所轄庁への報告と債権者への伝達を求めています。
以下、私立学校法の規定についてまとめています。

(1)法人承認
学校法人が合併するときは、法人内部の承認が必要です。承認決議は、理事総数の3分の2以上の同意を求め(特別決議)、ハードルを上げ容易に可決できないように定めています。理事の過半数の同意や理事会出席者のうち3分の2以上の同意といった要件は認めていないのです。
また、寄附行為において評議員会の議決を要する旨の規定を設けている学校法人では、当該議決も当然必要になります。
(条文:私立学校法第52条第1項)

(2)所轄庁の認可
上記(1)の法人承認後、文部科学省へ申請書類を提出し文部科学大臣の認可を受ける必要があります。
申請書類の内容は、私立学校法施行規則第6条第1項各号に規定しています。具体的に、合併の理由書、理事会議事録、合併契約書等の書類が必要です。
都道府県知事所轄の学校法人の場合は、都道府県知事を経由して認可申請することになります。都道府県知事は、あらかじめ文部科学大臣と協議を行います。
(条文:私立学校法第52条第2項、私立学校法施行規則第6条第1項各号、私立学校法施行令第2条第1項第3号、第3条第2号)

(3)財産目録及び貸借対照表の作成
上記(2)の認可から2週間以内に財産目録及び貸借対照表を作成します。学校法人の合併に伴い、解散する法人の権利義務は承継法人が引き継ぐため、財務状況を明らかにする必要があるからです。
また、後述する債権者の利益を保護するためにも財務の内容を適切に把握することが大切です。
(条文:私立学校法第53条第1項)

(4)債権者保護
上記(2)の認可から2週間以内に財産目録及び貸借対照表を作成しますが、この手続以外に別途、債権者保護の手続が求められます。学校法人の合併に伴い、債権者が不利益を被るのを防止するため、明文化して債権者保護を図っているのです。
所轄庁の認可の日から2週間以内に、債権者に対して異議があれば2か月以内に述べるべき旨を官報に公告します。また、判明している債権者に対しては、各別に催告しなければなりません。
債権者から異議申し立てがあった場合は、学校法人は弁済もしくは相当の担保を提供しなければなりません。または、債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社もしくは信託業務を営む金融機関に相当の財産を信託しなければなりません。
ただし、合併を行ったとしても債権者の利益を害するおそれがないときは、債権者保護の手続は必要ありません。一般的には、合併により財務基盤の強化や経営改善が図られるため、債権者の利益が損なわれない場合に備えて条文では容認規定を設け、手続の簡素化を認めています。
また、債権者が2か月以内に合併に対して異議を述べなかったときは、合併を承認したものとみなす規定があります。
(条文:私立学校法第53条第2項、第54条)

(5)設立
合併により学校法人を設立する場合、寄附行為その他学校法人の設立に関する事務は、各学校法人が共同して行います。
(条文:私立学校法第55条)

(6)登記
合併は、合併後存続する学校法人または合併により設立する学校法人の主たる事務所の所在地で登記を行い、この手続によって合併の効力が生じます。また、合併により存続する学校法人は、寄附行為の変更を伴うため、合併の登記後に文部科学大臣へ届け出を行います。
合併により消滅する学校法人は、解散の登記を行わなければなりません。
登記は、合併の手続終了後2週間以内に登記しなければなりませんが、債権者保護手続は2か月以上必要なため、これを経過した後に行います。
(条文:私立学校法第57条、私立学校法施行規則第6条第2項、第13条第2項、組合等登記令第8条第1項)

2.合併手続上の留意事項

上記のとおり、私立学校法では合併に関する様々な規定を設けていますが、実務上は合併手続の前段階、すなわち合併契約に至るまでのプロセスが重要です。
学校法人の設立・建学の精神や教育目的、組織風土や財務状況など様々な条件がマッチングすることにより、合併成立に近づくと思います。また、合併交渉の過程では、合併先の経営者と信頼関係を構築できるか大切な要因になるでしょう。合併後の教育方針や組織体制、人事といった内容についても事前に調整することが望ましいです。

【参考文献等】
・私立学校の経営革新と経営困難への対応(日本私立学校振興・共済事業団、学校法人活性化・再生研究会)
・大学・短期大学経営の事例集(日本私立学校振興・共済事業団、私学経営情報センター私学情報室)
・学校法人の合併又は学校の分離に係る会計処理について(中間報告)(日本公認会計士協会、学校法人委員会研究報告第7号)・学校法人会計のすべて(齋藤力夫、税務経理協会)

永和監査法人
公認会計士 佐藤弘章


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