2月の学校会計のチカラは、学校法人のM&Aについて解説します。第1週目は、M&Aの目的と方法を取り上げます。
1.経営環境とM&A
学校法人制度は、戦後の経済成長や人口増加の時代にあわせて広く社会から受け入れられ発展し充実化が図られましたが、人口減少時代を向かえ、学校法人を取り巻く環境は大きく変化し少子化対策がはじまっています。
文部科学省公表の「高等教育の将来構想に関する基礎データ(平成29年4月11日)」及び中央教育審議会大学分科会将来構想部会「今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理【概要】」(平成29年12月28日)によると、18歳人口は平成28年(2016年)の約119万人から、平成42年(2030年)には約101万人となり、15年間で18万人減少すると指摘しています。その翌年からは100万人を下回り、平成52年(2040年)は約80万人となり、25年間で39万人減少する予測になっています。
この影響は、生徒募集に不安のある学校法人の経営に甚大な影響を与えます。特に、私立大学では収入の約7割は学生生徒等納付金が占めているため、18歳人口の減少は定員の未充足率の可能性が高まることを示唆しており財務基盤の弱体化に直結します。今後の募集状況の結果次第では、私立大学は経営継続が困難となり、生徒募集の停止や解散しなければならない可能性が出てきます。
このような状況に陥らないための回避策の1つとして合併や分離の手法があります。合併や分離は、学校法人の組織形態の変更に伴うため大幅な業務効率化や充実した教育環境の提供、また教育の質向上が期待でき、学校法人の経営強化策の方法として考えられています。
ただし、学校法人は公益性の高い組織であり、建学の精神や設立目的、教育方針やカリキュラムは様々であるため、一般の営利企業における組織再編とは異なります。すなわち、学校法人でM&Aを検討するときは学校特有の事情を考慮する必要があるのです。
近年は、件数は多くありませんが、学校法人のM&Aが見受けられるようになりました。今後は、定員の抑制や私学助成の財源の問題が盛んに議論されていることも踏まえて、学校法人のM&A件数が増える可能性はあります。
2.M&Aの類型
学校法人におけるM&Aは、合併と分離の方法が考えられます。以下、それぞれの形態に応じた特徴を解説します。
(1)合併
合併は、複数の学校法人が1つの集合体に統合することをいい、合併前の各学校法人の権利・義務は、合併後の学校法人に承継します。たとえば、学生生徒の合併前と合併後の教育を受ける権利は通常変更することはありません。教職員の雇用は、通常合併後の学校法人が引き継ぎ、教職員は合併後の学校法人で勤務することになります。
学校法人の合併は、①新設合併、②吸収合併の2種類あります。
新設合併は、新規の学校法人を設立し、既存の学校法人は解散する方法です。たとえば、A学校法人とB学校法人が新設合併を行い、新たにC学校法人を新設した場合、A,B学校法人は合併により解散し、C学校法人が権利義務を承継します。
吸収合併は、新規の学校法人設立は行わず、既存の学校法人に権利義務を集約する方法であり、合併後の学校法人が事業継続し、吸収される学校法人は解散することになります。たとえば、D学校法人とE学校法人が吸収合併を行い、D学校法人を継続法人とした場合、D学校法人はE学校法人の権利義務を承継し、E学校法人は吸収合併により解散します。
(2)分離
分離は、合併と異なり学校法人は解散することなく、学校の権利義務を承継する方法であり、設置者変更といいます。
分離は、①新設分離、②吸収分離の2種類あります。
新設分離は、新規の学校法人を設立し、既存の学校法人の一部門を新設の学校法人に委譲する方法です。たとえば、新設分離によりG学校法人を新設し、F学校法人(a高等学校とb大学を設置)の一部門であるa高等学校を新たに新設したG学校法人に委譲した場合を考えます。この場合、a高等学校に属する権利義務は、F学校法人から新設のG学校法人へ変更することになるため、F学校法人にとってはa高等学校の権利義務は消滅しますが、その他の学校(b大学)への権利義務は存続します。また、新たに新設したG学校法人は、a高等学校の権利義務を引き継ぎますが、F学校法人に存続する学校(b大学)への権利義務は承継しません。
他方、吸収分離は、既存の学校法人の一部門を他の既存の学校法人へ委譲する方法であり、新規の学校法人は設立しません。
たとえば、既存のH学校法人(c短期大学とd高等学校を設置)が吸収分離により、既存のI学校法人(e大学とf高等学校を設置)へc短期大学を委譲した場合を考えます。この場合、c短期大学に属する権利義務は、H学校法人からI学校法人へ変更になりますが、新設分離と異なり、既存のI学校法人へ引き継ぐため新規の学校法人設立の手続が発生しないというメリットがあります。
H学校法人にとっては、c短期大学は譲渡しますがd高等学校は残るため、d高等学校の経営に集中することができます。I学校法人では、既存のe大学とf高等学校以外に、c短期大学が新たに加わるため、既存の学校との相乗効果や規模の拡大によるメリットが期待できます。
【参考文献等】
・私立学校の経営革新と経営困難への対応(日本私立学校振興・共済事業団、学校法人活性化・再生研究会)
・大学・短期大学経営の事例集(日本私立学校振興・共済事業団、私学経営情報センター私学情報室)
・学校法人の合併又は学校の分離に係る会計処理について(中間報告)(日本公認会計士協会、学校法人委員会研究報告第7号)
・学校法人会計のすべて(齋藤力夫、税務経理協会)
永和監査法人
公認会計士 佐藤弘章