今回も前回に引き続き、「学校法人に関係する法令」について解説します。前回は私立学校振興助成法の概要説明と学校法人会計基準との関連性などについて解説しました。
今回は学校法人の運営を担う理事と理事の職務執行を監査する監事との関係、評議員会による諮問制度、近年改正のあった財務情報の公開制度など学校法人の管理運営制度について私立学校法の規定を引用しながら概観します。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。
1.私立学校法における管理運営制度
⑴ 私立学校法における役員と運営
学校法人の管理運営制度については、私立学校法の「第3章 学校法人 第3節 管理」の規定が重要となります。「第3節 管理」では、理事や監事といった役員に関するもの、理事会や評議員会の運営などが規定されています。
私立学校法では、「学校法人には、役員として、理事五人以上及び監事二人以上を置かなければならない」(私学法35条1項)とされ、理事のうち一人は、寄附行為の定めるところにより、理事長となります(35条2項)。
そして、私学法は、学校法人に理事をもって組織する理事会を置くことを求め(36条1項)、その理事会は、「学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する」(36条2項)として、理事会が学校法人の意思決定機関であると規定しています。
理事会は、理事長が招集し、理事(理事長を除く。)が、寄附行為の定めるところにより、理事会の招集を請求したときは、理事長は、理事会を招集しなければならない(36条3項)とされています。この理事会は、理事の過半数の出席がなければ、その議事を開き、議決することができないものとされ、理事会の議事は、寄附行為に別段の定めがある場合を除いて、出席した理事の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによります(36条5項・6項)。
また、学校法人には、その業務若しくは財産の状況又は役員の業務執行の状況について、役員に対して意見を述べ、若しくはその諮問に答え、又は役員から報告を徴することができる機関として、評議員会の設置が求められています(43条)。評議員会設置の理由は、学校法人の公共性を高めるためであり、仮に全理事が評議員を兼任した場合であっても、評議員会が理事会とは別の第三者による合議制の機関として有効に機能し得 るように配慮したためとされています。
理事会は、寄附行為によって評議員会の議決を要するものと定められている場合を除き、諮問機関たる評議員会の意志に法的に拘束されるものではありません。ただし、私立学校法は、理事長が必ず事前に評議員会の意見を聞かなければならない事項として、以下の一号から七号に掲げるものを規定しています。
一 予算、借入金(当該会計年度内の収入をもって償還する一時の借入金を除く。)及び重要な資産の処分に関する事項
二 事業計画
三 寄附行為の変更
四 合併
五 理事の三分の二以上の同意による解散(寄附行為で更に評議員会の議決を要するものと定められている場合を除く。)及び目的たる事業の成功の不能による解散
六 収益を目的とする事業に関する重要事項
七 その他学校法人の業務に関する重要事項で寄附行為をもって定めるもの
なお、これらの事項は、寄附行為をもって評議員会の議決を要するものとすることができます(42条2項)。この他、「理事長は、毎会計年度終了後二月以内に、決算及び事業の実績を評議員会に報告し、その意見を求めなければならない」(46条)とし、計算書類の議決については、評議員会への事前諮問事項とはせずに事後報告事項としています。
⑵ 私立学校法における監査制度
私立学校法は、学校法人に2人以上の監事を置くことを求めており、監事は、学校法人の業務及び財産の状況を監査するものとされています。監事の職務として、学校法人の業務又は財産の状況について、毎会計年度、監査報告書を作成し、当該会計年度終了後2ヶ月以内に理事会及び評議員会に提出することが規定されています。また、学校法人の業務及び財産の状況を監査した結果、学校法人の業務又は財産に関し不正の行為又は法令若しくは寄附行為に違反する重大な事実があることを発見したときは、これを所轄庁に報告し、又は理事会及び評議員会に報告することが規定されています。そして、その報告をするために必要があるときは、理事長に対して評議員会の招集を請求することができます。なお、学校法人の業務又は財産の状況について、理事会に出席して意見を述べることができます(37条3項各号)。
監事の選任については、監査される側である理事長が自らに都合の良い人選をしないように、「監事は、評議員会の同意を得て、理事長が選任する」ものとされています(38条4項)。また「監事は、理事、評議員又は学校法人の職員と兼ねてはならない」ものとされ、被監査部署からの一定の利害関係の排除が法定されています(39条)。
⑶ 寄附行為とは
上記した私立学校法の各規定をみると、「寄附行為」という言葉が何度も出てくることが分かります。ところで、この「寄附行為」とは何でしょうか?
端的に表現すると、「寄附行為」とは、学校法人の根本規則であり、企業でいう「定款」に当たるものです。私立学校法上、寄附行為には以下の2つの意味があります。
一つは、創立者が必要な財産を寄附して学校法人を設立する行為そのものをいい、もう一つは、学校法人の根本規則を定めた文書をいいます。前者は寄附による設立行為を表し、後者は設立後の学校法人の行為を文書化したものと言え、両者をまとめて「寄附行為」と私立学校法では呼んでいます。各規定で出てくる寄附行為は、通常、後者の行為書の方を意味します。
2.学校法人の財務情報の公開制度
⑴ 閲覧の対象となる書類
国又は都道府県から経常費補助金を受けている学校法人は、私立学校振興助成法の規定により所轄庁(文部科学大臣又は都道府県知事)に対して、貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類の作成、届出が義務付けられており、また、これらの書類は、情報公開法又は情報公開条例に基づく開示請求の対象となっています。
これに対して、私立学校法では、補助金の有無にかかわらず、すべての学校法人が公共性の高い法人としての説明責任を果たし、関係者の理解と協力を一層得られるようにしていく観点から、財務書類の公開に関する規定が設けられています。すなわち、学校法人は、毎会計年度終了後2ヶ月以内に財産目録、貸借対照表、収支計算書及び事業報告書を作成し、これらの書類及び監事の監査報告書を各事務所に備えて置き、当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければなりません(私学法47条)。なお、収益事業を行っている学校法人については、その収益事業に係る財務情報も閲覧の対象としなければなりません。
一方で、幼稚園など小規模法人にあっては、不当な目的による開示請求への対応やプライバシーの保護、また実際の事務負担等についても配慮すべきですから、各都道府県において所轄の学校法人に対して指導を行うに際しては、これらの小規模法人に過度の負担とならないよう配慮することを文科省は求めています。
⑵ 閲覧対象者
当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人から請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて、これを閲覧に供しなければなりませんが(私学法47条)、ここでいう「利害関係人」とは、在学者をはじめ、学校法人との間で法律上の権利義務関係を有する者を指します。
具体的には、例えば、
① 当該学校法人の設置する私立学校に在学する学生生徒やその保護者
② 当該学校法人と雇用契約にある者
③ 当該学校法人に対する債権者、抵当権者
等がこれに該当します。
したがって、例えば、当該学校法人の設置する私立学校の近隣に居住する者ということのみでは、利害関係人には該当しません。また、当該学校法人の設置する私立学校に入学を希望する者については、当該学校法人において、入学する意思が明確に確認できると判断した場合等には、利害関係人に該当すると考えられます。なお、これらの者以外の者に対しても、各学校法人の判断により、積極的な情報公開の観点から、柔軟に対応することが望まれます(改正私立学校法Q&A問20)。
また、閲覧を拒むことができる「正当な理由」については、具体的には、例えば、
① 就業時間外や休業日に請求がなされた場合等、請求権の濫用に当たる場合
② 当該学校法人を誹謗中傷することを目的とする場合等、明らかに不法・不当な目的である場合
③ 公開すべきでない個人情報が含まれる場合等が考えられます。
この「正当な理由がある場合」に該当するか否かは、個別の事例に応じ、各学校法人において適切に判断すべきものですが、積極的な情報公開の観点から慎重に判断することが望まれます。
なお、「正当な理由がある場合」に該当する場合であっても、例えば個人情報が含まれる部分を除いて閲覧に供すれば問題が生じないと考えられる場合には、当該部分を除いて閲覧に供するなど、積極的な対応を工夫することが望まれます(改正私立学校法Q&A問21)。
(永和監査法人 公認会計士 津村)