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学校会計のチカラ
学校法人の予算制度 1

今回から2回に分けて「学校法人の予算制度」について解説します。学校法人の運営の特徴として予算主義があげられます。学校法人は、その諸活動の計画について予算を編成し、予算に基づいて運営することが求められています。今回は学校法人における予算の必要性とその役割などについて解説します。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。

1.予算の必要性と3つの役割

⑴ 予算の必要性

私立学校法第42条では、学校法人の予算については理事長において、あらかじめ、評議員会の意見を聞かなければならないと規定されています。また私立学校振興助成法第14条2項では、収支予算書を所轄庁に届け出ることを義務付けています。
予算とは、学校法人の教育研究活動の具体的計画を所定の計算体系に基づいて科目と金額で表示したものです。株式会社などの営利企業の会計では、予算に対する法的義務付けはされていませんが、学校法人の会計ではなぜ予算が必要なのでしょうか。「学校法人の予算制度に関する報告(第1号)について」(学校法人財務基準調査研究会)によれば、以下のように述べられています。

①資金源泉の公共性
学校法人の資金源泉の主要なものは、学生生徒等納付金であり、また、近時、国・地方公共団体等からの補助金が占める割合が増加してきています。さらに、学校法人の多様な資金源泉の中には、学費負担者以外の第三者による善意の寄附金も多かれ少なかれ含まれています。
このように、学生生徒等納付金のみならず、国民の税金や善意の寄付金を資金の源泉にあおぐ場合、その適正な使用について特に努力を払わなければならないのは当然であり、予算制度はその効果的な使用の計画と、実際の使用過程における無駄や浪費の排除のために、必須の制度と理解されます。

②収入・支出要因の固定性
学校法人の主要な財源である学生生徒等納付金収入は、学生生徒等の数と授業料等の単価との積として算出されますが、教育の1サイクル(修業年限)の期間において、授業料等学費の単価はそのサイクルの途中でたやすく変更できない場合が多く、学生生徒等の数もサイクルのはじめに確定した人数が卒業までにほとんど増減しないのが通常です。このため、収入についてはもとより、支出についても、その教育プログラムの1サイクルが終了するまでは、これに必要な支出として当初計画した額を自由に変更することは実際上困難です。
このように、当初の計画が単に1会計年度にとどまらず、以後、数年度にわたって学校法人の財政に固定的な影響を及ぼします。その点で当初計画の適否は学校法人の財政に決定的な意味をもつといえます。

③資金運用上の損失の特性
学校法人の資産に対しては、何びとの所有権も持分関係も成立しないので、学校法人の運用上その資産に損失が生じても、それが「善良な管理者の注意」の明らかな欠如によるものでない限り何びともその損失を負担できる関係にはなりません。このことは元入資本出資者が損失をすべて負担する営利事業の場合とは異なるところです。ただし、寄附行為や資産運用規程などに反する投機的運用は理事会に責任があるといえます。
また、学校法人の収入・支出の関係は、営利事業のように収益をもって費用を回収するという過程をもたず、学校法人の収入は一方的に消費されるに過ぎません。

⑵ 予算の役割

予算が教育研究活動の計画であるなら、教育研究活動の実施は予算の実行であると位置付けられます。なぜなら教育研究活動の実施は、資金の収支又は財産の増減としてとらえられるからです。また、実行された予算は、当初予算と常に対比され、教育研究活動が計画どおりに進行されているかどうかが検討されます。さらに予算は、「計画」、「管理」、「調整」という三つの機能を併せ持つことで積極的な役割を果たすことができます。

①計画機能
予算は、具体的な教育研究活動の計画の実現を可能ならしめるための資金的裏付けを行うものであり、予算を作成することで学校法人の事業目的を実現させるため最大の効果を発揮できるような計画の選択及び資金の配分が可能となります。

②管理機能
学校法人の予算が計画され、教育研究活動が実施されるとそれは予算の執行として位置付けられます。予算の執行結果は、当初策定された予算と常に対比され、教育研究活動が計画どおりに進行しているか管理されます。また決算時には、予算額と決算額との差額について発生原因が分析され、次年度以降の予算策定に利用されます。このような運用サイクルのことを一般的にPDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクルの循環と言われており、予算策定段階の仮説を検証し、予算達成のための行動計画を常に最適化することが重要となります。

③調整機能
予算を策定し、またその執行状況を把握することで、各部門間の調整と支出超過に対する措置を講ずることができます。

2.予算の原則

予算の執行にあっては、守らなければならない、いくつかの原則があります。このうち特に重要な原則は以下のとおりです。

⑴ 事前決定の原則

予算の制度とは、諸活動の実行を計画に基づいて行うものですから、新年度開始以前に計画ができていなければなりません。したがって、会計年度の開始前、つまり3月末までに理事長は評議員会の意見を聞いた上で、理事会の承認を得ることが必要です。

⑵ 支出超過禁止の原則

支出超過禁止の原則は、予算を超えた支出を行うことを原則として禁止する原則です。なぜなら支出超過は計画外の活動を意味するからです。しかし、状況の変化に対応するために、例外も認められます。支出超過には、予算外支出(予算にない項目の支出)と超過支出(予算項目の金額を超えた支出)の二つがありますが、これらに対して次のような方策を講ずる必要があります。

① 予備費の使用・・・所定の承認を経て行います。
② 科目間の流用・・・所定の承認を経て、通常は同一大科目内での流用が認められます。
③ 予算の補正・・・・評議員会の意見を聴いた上で理事会の決議を要します。

⑶ 限定性の原則

限定性の原則とは、科目間流用禁止の原則ともいいます。この原則の趣旨は、科目間の流用を無制限に認めると、収支総額のみの計画となってしまい、そもそも予算が無意味になってしまうことが挙げられます。また、部門間の流用も同じで、高等学校の予算項目を幼稚園の予算項目に流用することは予算の無意味化をもたらしますから、予算編成上好ましくありません。
しかしながら、すべての流用を禁止すれば運営が硬直的になり、業務を円滑にすすめることができなくなるおそれもあります。このため所定の承認手続を条件に、同一部門における同一大科目内の範囲であれば流用を認めるべきです。例えば、教育研究経費の中の印刷製本費の予算を、必要により消耗品費の予算に流用する場合などが考えられます。
また、支出超過禁止又は限定性の原則の例外として「収入金支弁の原則」というものがあります。例えば売店の売上高予算を5,000万円、仕入高予算を4,000万円と計画していたところ、予想以上に売上が伸びて6,000万円の売上、仕入は4,800万円になったとした場合、仕入予算の支出超過800万円は、収入の伸び高1,000万円で充当できるため、他の計画に何ら支障をきたしません。このように収入と支出の間に相関関係があると思われる補助活動事業、受託事業などの収入増加に伴い、予算超過支出があらかじめ承認されている場合は、所定の手続を経て支出を行うことができるものとされています。これを予算の弾力的運用といいます。

⑷ 総額表示の原則

一般の会計の原則と同様に、収入と支出とを相殺したり、資産と負債とを相殺したりして純額で表示することは認められません。ただし「会計基準」で認められている経過的収支(預り金など)や補助活動事業の収支については純額によることができます。

⑸ 積算正確性の原則

予算は、過去の実績を参考にして将来の計画を立てるものです。単に前年度の実績に適当に積み上げるものではありません。計画ですからもちろん正確に金額を測定することは困難ですが、各項目にわたり、できるだけ正確に積算基礎を求め作成することが必要です。

⑹ その他の原則

その他の原則としては、明瞭性の原則、安全性の原則、単一性の原則などがあり、一般の会計原則と変わりありません。

〔参照〕
学校法人会計のすべて第3版(税務経理協会)

(永和監査法人 公認会計士 津村 玲)


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