今週も引き続き源泉所得税の具体的事例について解説します。
Q:学校法人の教員が他の団体から研究助成金を受け取った場合の課税関係
当学園の教員は、外部の公益財団法人が公募する研究助成に応募し、審査の結果、助成金の交付を受けることとなりました。この助成金を受け取った場合には、所得税は非課税とされるのでしょうか?あるいは課税されるのでしょうか?
また、課税される場合には、源泉所得税が徴収されるのでしょうか?あるいは、自ら税務署へ確定申告書を提出する必要があるのでしょうか?
A
1.学術奨励金に関する所得税の課税の有無
教員や学生が行う学術に関する研究を奨励する目的で交付される学術奨励金については、所得税法第9条(非課税所得)に規定されているものは非課税となりますが、この規定に該当しないものは課税の対象となります。
所得税法第9条の非課税の規定に該当しない学術奨励金が、教員の在籍する学校法人から交付されるのであれば、給与所得に該当するものとして源泉所得税を徴収しなければならない可能性も生じます。しかし、今回の事例のように、他の団体から交付される学術奨励金であれば給与所得ではありませんので、源泉徴収は不要です。
また、優秀な研究論文に対して支払われる金品であれば、所得税法第204条に規定されている報酬・料金等のうち原稿料に該当し源泉徴収が必要となる可能性もありますが、今回の事例のように、学術に関する研究を奨励する目的で交付される金品で、その研究に要する費用等の一部を助成するものであれば、所得税法第204条に規定されている報酬・料金等ではありませんので、源泉徴収は不要です。
したがって、所得税法第9条の非課税の規定に該当しない学術奨励金の交付を受けた場合には、源泉所得税の徴収はありませんが、一時所得に該当しますので所得税確定申告書を提出して申告納税をする必要が生じます。
2.所得税法における非課税の規定
所得税法第9条(非課税所得)第1項には、第1号から第18号までの非課税となる項目が列挙されており、これらのいずれかに該当するものであれば、所得税は課税されないため、所得税の源泉徴収や税務書への申告手続きも不要です。
所得税法第9条(非課税所得)第1項第13号では、次のとおり非課税の規定があります
学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国、地方公共団体又は財務大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。) で財務大臣の指定するもの
すなわち、非課税とされる学術奨励金は、「財務大臣の指定するもの」でなければならず、現在指定されているのは次の24の金品です。(財務省告示を一部省略し、要約しています。)
- 国から野口英世博士記念アフリカの医学研究・医療活動分野における卓越した業績に対する賞として交付される金品
- 国から交付される科学研究費補助金又は独立行政法人日本学術振興会から交付される科学研究費補助金若しくは学術研究助成基金助成金
- 独立行政法人日本学術振興会から国際生物学賞として交付される金品
- 財団法人旭硝子財団からブループラネット賞として交付される金品
- 財団法人稲盛財団から京都賞として交付される金品
- 財団法人大河内記念会から大河内記念賞として交付される金品
- 財団法人国際科学技術財団から日本国際賞として交付される金品
- 財団法人国際花と緑の博覧会記念協会から花の万博記念コスモス国際賞として交付される金品
- 財団法人高松宮妃癌研究基金から高松宮妃癌研究基金研究助成金及び高松宮妃癌研究基金学術賞として交付される金品
- 財団法人東レ科学振興会から東レ科学技術研究助成金及び東レ科学技術賞として交付される金品
- 財団法人内藤記念科学振興財団から内藤記念科学奨励金及び内藤記念特定研究助成金並びに内藤記念科学振興賞として交付される金品
- 財団法人日本農業研究所から日本農業研究所賞として交付される金品
- 財団法人藤原科学財団から藤原賞として交付される金品
- 財団法人本多記念会から本多記念賞として交付される金品
- 財団法人三島海雲記念財団から三島研究奨励金として交付される金品
- 財団法人朝日新聞文化財団から朝日賞として交付される金品
- 株式会社毎日新聞社から毎日学術奨励金並びに毎日出版文化賞及び毎日工業技術賞として 交付される金品
- 株式会社読売新聞社から読売文学賞として交付される金品
- 国際ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム推進機構から交付される研究助成金
- 国際レーニン平和賞委員会から国際レーニン平和賞として交付される金品
- ゼネラル・モーターズがん研究基金からゼネラル・モーターズがん研究賞として交付される金品
- マグサイサイ基金からマグサイサイ賞として交付される金品
- 国際獣疫事務局から交付される研究費補助金
- 国際数学連合からフィールズ賞として交付される金品
上記に該当しない学術奨励金は、課税の対象となります。
3.所得税法以外の非課税の規定
非課税とされる所得は、所得税法以外の法令にも定めがあり、「租税特別措置法の規定により非課税とされるもの」や「その他の法律により非課税とされるもの」があります。いずれも、数多くの非課税項目が列挙されていますが、代表的なものとして次のようなものがあります。
「租税特別措置法の規定により非課税とされるもの」
- 財形貯蓄の利子
- 納税準備預金の利子
- 国又は地方公共団体に財産を寄附した場合の譲渡所得等
「その他の法律により非課税とされるもの」
- 健康保険の保険給付
- 介護保険の保険給付
- 雇用保険の失業給付
4.非課税所得に該当しない場合の税金の負担
非課税とされる学術奨励金に該当せず、課税の対象となる場合には、税務上は次のとおり取り扱うこととなります。
(1)所得税計算上の所得の種類は「一時所得」に該当します。
(2)一時所得の税額は、次の算式で計算します。
(収入金額-必要経費-一時所得特別控除50万円)×1/2×所得税率
(3)例えば、学術奨励金として助成金100万円の交付を受けた場合で研究直接経費がないときの所得税は、次のとおりです。
ア (助成金100万円-研究直接経費0円-特別控除50万円)×1/2
= 一時所得金額25万円
イ 一時所得金額25万円×所得税率(5~45%)
ウ 所得税率は、他の所得と合算した所得金額に応じて決まります。
エ 所得税のほか、復興特別所得税(所得税額×2.1%)と住民税(一時所得金額×10%)が課税されます。
(4) 助成金100万円に対し、研究直接経費が50万円以上を要している場合であれば、税額は0 円です。
(5) 助成金が50万円以下であれば、研究直接経費の額にかかわらず、税額は0円です。
( 斎藤総合税理士法人 坂寄 隆 )