10月最終週の学校会計のチカラは、先週に引き続き固定資産の減価償却方法と貸借対照表の表示について考えていきます。
1.減価償却方法
(1)定額法
学校法人会計基準26条2項では「減価償却資産の減価償却の方法は、定額法によるものとする。」と規定しています。したがって、学校法人では定額法のみ認められます(一部の学校法人以外の私立学校では定率法の適用が可能です。附則4参照)。
(2)償却開始時期
減価償却は、固定資産の使用を開始した年度(事業供用年度)から償却計算を行い、年度中に取得した場合は年間償却額を使用月数で按分します。これにより、取得年度における適切な減価償却計算を行うことができます。ただし、重要性がない場合は、以下の3点も妥当な会計処理として取り扱うことができます。
- 取得時の会計年度は、償却額年額の2分の1の額により行う。
- 取得時の会計年度は、償却を行わず、翌会計年度から行う。
- 取得時の会計年度から償却額年額により行う。
ここでいう重要性がない場合とは、学校法人の計算書類に与える金額的な重要度を考慮していると思われます。たとえば、有形固定資産の帳簿価額10億(土地4億、建物5億、他備品等1億)を保有する学校法人の例を考えます。そして仮に、当年度中に建物A(取得価額5,000万円)と建物B(取得価額500万円)の建物2棟完成・引渡しを受けたとき、どのように判断することが望ましいでしょうか。建物Aは有形固定資産の帳簿価額10億の5%(建物簿価5億の10%)を占め、建物Bは有形固定資産の帳簿価額10億の0.5%(建物簿価5億の1%)になります。ここで重要性の判断を伴うことになりますが、有形固定資産の帳簿価額10億に占める割合を判断基準とした場合、建物Aは5%、建物Bは0.5%のため、建物Aは重要性あり、建物Bは建物Aと比較して重要性なしとの結論に至ることが考えられます。この場合、建物Aは年間償却額を使用月数で按分計算、建物Bは上記a~cを適用することが可能になると思われます。
今回の例は、有形固定資産の帳簿価額を基準に両者を単に比較した上で重要性の判断を行っていますが、重要性の判断となる基準は複数考えられるため、主観的な判断を回避するために事前に規程等で判断基準を明確にすることが望ましいです。
また、建物が完成して引渡しを受けた後、長期間に渡り施設を使用しない場合は償却開始時期に留意する必要があります。この場合、施設内の固定資産のうち、時の経過に応じて価値が減少すると考えられる部分については減価償却を計上する必要があります。たとえば、新学科で使用する新校舎を建設して、当年度に完成・引渡しを受けたが開校は数年先の場合を考えます。この場合、償却開始時期を新学科開始時期に合わせて一律に実施するのではなく、施設内部の実態を踏まえて償却開始時期を検討することが望まれます。
(3)グループ償却
減価償却は原則として個別資産ごとに償却を行いますが、学校法人ではグループ償却が認められています。この方法は、机、椅子等の機器備品に関する減価償却は取得年度ごとに同一耐用年数のものを1つのグループとして考え、一括して年度の減価償却を行います。そして、耐用年数到来時に当該機器備品を現物の有無にかかわらず一括除却処理する方法をいいます。机、椅子等の機器備品は、教育研究に多数必要な資産であり、個別に償却計算すると煩雑な事務手続になる場合があるため、管理上の便宜を図った方法といえます。学校法人特有の論点の1つでもあります。
以下に設例を記載しますので、参考にしてください。
【グループ償却の例】
(耐用年数5年でグループ、当年度を05年度とした場合)
取得年度 | グループ名 | 取得価額 | 期首償却累計 | 期首帳簿価額 | 当期償却額 | 期末償却累計 | 期末帳簿価額 | 経過年数 |
01年度 | A | 500 | 400 | 100 | 100 | 500 | 0 | 5 |
02年度 | B | 400 | 240 | 160 | 80 | 320 | 80 | 4 |
03年度 | C | 300 | 120 | 180 | 60 | 180 | 120 | 3 |
04年度 | D | 200 | 40 | 160 | 40 | 80 | 120 | 2 |
05年度 | E | 100 | 0 | 100 | 20 | 20 | 80 | 1 |
合計 | – | 1,500 | 800 | 700 | 300 | 1,100 | 400 | – |
【設例1】
「当年度を05年度とした場合の仕訳」
・事業活動収支計算の仕訳
(借)減価償却額 300 (貸)減価償却累計額 300
(借)減価償却累計額 500 (貸)教育研究用機器備品 500(グループAの除却)
※ 減価償却額
300=100(グループA)+80(グループB)+60(グループC)+40(グループD)+20(グループE)
また、耐用年数未到来の資産を除却した場合、①除却年度において経過年数に応じた償却累計額を見積ったうえで除却仕訳を計上する方法と②除却の有無に関係なく償却を継続する方法がありますが、①の方法が望ましいです。①の場合の仕訳例は次のとおりです。
【設例2】
「当年度を05年度とした場合で、03年度の備品(グループC)のうち、取得価額100、期末償却累計60を当年度末に除却した場合の仕訳」
・事業活動収支計算の仕訳
(借)減価償却累計額 60 (貸)教育研究用機器備品 100
(借)教育研究用機器除却差額 40
※ 減価償却累計額60=100(取得価額)÷5年(耐用年数)×3年(経過年数)
なお、仮に②除却の有無に関係なく償却を継続する方法を採用した場合、上記設例2の仕訳は行いません。したがって、存在しない備品に対して減価償却計算することになり、実態とかけ離れた減価償却計算になるというデメリットがあります。
2. 表示内容
(1)減価償却資産の表示
学校法人会計基準第34条3項では、「減価償却資産については、当該減価償却資産に係る減価償却額の累計額を控除した残額を記載し、減価償却額の累計額の合計額を脚注として記載するものとする。」と規定しています。減価償却を行う資産は、取得価額から減価償却額の累計額を控除した純額をもって貸借対照表に計上して、減価償却額の累計額を貸借対照表に注記することが一般的です。
なお、後段の規定、「ただし、必要がある場合には、当該減価償却資産の属する科目ごとに、減価償却額の累計額を控除する形式で記載することができる。」の方法は実務ではあまり見られません。
(2)固定資産明細表
決算報告にあたり、固定資産の内訳内容を記載した「固定資産明細表」(学校法人会計基準第36条、第8号様式)を作成する必要があります。
固定資産明細表は、「期首残高」、「当期増加額」、「当期減少額」、「期末残高」の各項目を取得価額で記載します。そして、「期末残高」から「減価償却額の累計額」を控除した「差引期末残高」の記載が必要です。
そのため、会計帳簿は固定資産別に科目を設定して、取得価額で取得・除却の継続記録を行い、減価償却額については「減価償却累計額」の科目を固定資産別に設けて間接法による記帳が一般的です。
3. 固定資産のまとめ
以上、10月の学校会計のチカラは固定資産の内容を中心に取り上げました。固定資産は計算書類に与える影響が大きく、取得価額の考え方や減価償却方法については実務上の重要な論点となりますので、4回にわたる内容を参考に会計処理を考えていただきたいと思います。
【参考文献等】
- 学校会計入門(中央経済社、齋藤力夫)
- 学校法人会計のすべて(税務経理協会、齋藤力夫)
- 学校法人委員会研究報告第20 号「固定資産に関するQ&A」(日本公認会計士協会)
- 学校法人委員会報告第28号「学校法人の減価償却に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会学校法人委員会)
(公認会計士 佐藤 弘章)