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学校会計のチカラ
固定資産のポイント 1

10月の学校会計のチカラは、固定資産について考えていきます。第1週目は、固定資産の意義と学校法人会計基準の内容を取り上げます。

1.固定資産の重要性

学校法人は利益重視の一般企業とは異なり、教育研究を目的とした組織であるため、長期的な視点で経営を考える必要があります。
この目的を達成するため、学生生徒の教育研究活動に必要な施設・設備を用意して、学校運営に支障をきたすことのないように継続的に管理することが求められています。私立学校法25条では、「学校法人は、その設置する私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金並びにその設置する私立学校の経営に必要な財産を有しなければならない。」と明記しています。
このような特性から、施設・設備は学校法人の基本財産の多くを占めることになり、教育研究目的の財産を明確化するため、学校法人会計基準に基づいて会計処理することが大切になるのです。
学校法人の貸借対照表の様式は、固定項目を先に表示して流動項目はその次に表示する固定性配列法を採用しています。流動項目を先に表示する流動性配列法を採用している企業会計と大きな相違点がここにあるといえます。

【学校法人と株式会社の主な相違点】

項 目 学校法人 株式会社
目的 教育研究目的 営利目的
利益 短期的な利益は必要ない。利益という概念はない。 資金の流動化を図り、短期的な利益追求が必要となる。
固定資産の保有義務 資金を留保して、長期安定的に施設・設備の保有が求められる。 固定資産の永続保有は必須ではない。
利害関係者 学生生徒等・保護者・教職員・地域社会・所轄庁・金融機関 株主・債権者・従業員・取引先・国・地域社会・金融機関
貸借対照表の表示 固定性配列法 流動性配列法(※)

(※)企業会計の基準の適用対象となる電気事業者等において、固定性配列法による表示を行っている会社はあります。

2.学校法人会計基準の規定

(1) 規定の内容

固定資産に関する学校法人会計基準上の規定は、以下のとおり別表第三に明記しています。

【別表第三の抜粋(大科目・固定資産のみ)】

中科目 小科目 備 考
有形固定資産 貸借対照表日後1年を超えて使用される資産をいう。耐用年数が1年未満になっているものであつても使用中のものを含む。
土地
建物 建物に附属する電気、給排水、暖房等の設備を含む。
構築物 プール、競技場、庭園等の土木設備又は工作物をいう。
教育研究用機器備品 標本及び模型を含む。
管理用機器備品
図書
車両
建設仮勘定 建設中又は製作中の有形固定資産をいい、工事前払金、手付金等を含む。
特定資産 使途が特定された預金等をいう。
第2号基本金引当特定資産
第3号基本金引当特定資産
(何)引当特定資産
その他の固定資産 借地権 地上権を含む。
電話加入権 専用電話、加入電話等の設備に要する負担金額をいう。
施設利用権
ソフトウエア
有価証券 長期に保有する有価証券をいう。
収益事業元入金 収益事業に対する元入額をいう。
長期貸付金 その期限が貸借対照表日後1年を超えて到来するものをいう。

このように、固定資産は3つの中科目に区分しています。学校法人では施設の充実化を図ることが求められていますので、有形固定資産のうち、土地及び建物に多額の資産が計上されるという特性があります。また、学校運営に必要な机・椅子等の備品や図書を多数保有しているため、これらの財産を教育研究用機器備品(管理用機器備品含む)、図書の科目で貸借対照表に計上することになります。

(2) 固定資産の評価の考え方

次に、学校法人会計基準25条では、「資産の評価は、取得価額をもってするものとする。」と固定資産の評価に関する規定を定めています。購入による場合は、購入に要した付随費用を取得価額に含めて計上します。ただし、学校法人会計基準25条の但書で、「通常要する価額(時価)より著しく低い価額で取得した資産、贈与資産については、取得又は贈与の時における当該資産の取得のために通常要する価額(時価)で評価する」(条文は一部省略しています)と規定しています。
学校法人会計基準を含む現在の主要な会計基準では、資産の評価方法は取得時の支出額による「取得原価主義」が採用しています。固定資産購入を第三者との取引で行う場合は等価交換が前提であるため、固定資産の取得に必要となる支出額は固定資産の市場における公正な評価額、すなわち固定資産の時価になります。固定資産の購入希望者は、市場の求める資金を対価として支払う必要があるのです。市場の求める価値をもって資産評価することが合理的であるとの考えに基づいて、取得原価主義は成立していると思われます。

(3) 贈与及び市場の価値より低い価額の場合

上記(2)では、固定資産の評価は取得原価主義の考え方が適用されていると説明していますが、固定資産取引において等価交換が前提にならないときがあります。それは、固定資産の提供者からの好意により、無償や市場の価値より低い価額での取引が行われる場合です。この場合、取得原価主義の考え方の1つである支出額による評価を前提とすると、無償の場合の固定資産評価はゼロ、市場価値より低い価額での取引の場合は時価より低い価額で固定資産を評価することが好ましいのではないかと考えられます。仮に、無償により固定資産を譲り受けて固定資産をゼロ評価した場合、学校法人ではどのような問題が生じるでしょうか。

① 収支均衡の問題

第一に、学校法人会計基準15条の「事業活動収支計算の目的」が達成されません。15条は「学校法人は、毎会計年度、当該会計年度の事業活動収入及び事業活動支出の内容を明らかにするとともに、当該会計年度の諸活動に対応する全ての事業活動収入及び事業活動支出の均衡の状態を明らかにするため、事業活動収支計算を行うものとする」(条文は一部省略しています)と規定しています。しかし、固定資産のゼロ評価の結果、固定資産の使用から得られる学生生徒からの授業料等収入(事業活動収入)に対する減価償却額(事業活動支出)が計上されません。これでは、固定資産の使用から発生する役務提供の活動について、事業活動収支計算の目的の1つである事業活動支出の内容及び事業活動収支の均衡の状態が明らかにならないという問題が生じる可能性があります(減価償却の詳しい説明は次週以降の10月の学校会計のチカラで取り上げます)。

② 比較可能性の問題

第二に、学校法人間の比較可能性について問題があります。
例えば、A学校法人で備品50万円(時価)を購入した場合、A 学校法人の貸借対照表に備品50万円が計上されます(減価償却等の影響は除きます)。他方、B学校法人では同様の備品(時価50万円)を贈与により譲り受けた場合、支出額なしのため、B 学校法人の貸借対照表には備品50万円が計上されません。仮に、両学校法人で同一の固定資産を同一方法で利用している場合、学校法人間で異なる財務情報が提供されることになり、比較可能性が損なわれるおそれがあるという問題が考えられます。

③ 取得原価主義の問題

第三に、「取得原価主義」の考え方に照らして考える必要があります。取得原価主義は、上記(2)でふれていますが、固定資産評価は購入に要した支出額(資金)に基づいているとも考えられるため、無償により固定資産を譲り受けた場合、支出額なしにつきゼロ評価が望ましいと考える見解があります。しかし、現在の取得原価主義はこのように考えていません。固定資産の評価は、市場の求める固定資産の価値が公正な価格であると考えており、必ずしも支出額に根拠を求めていません。すなわち、贈与等の特殊事情により支出額ゼロであったとしても、取得原価主義の価値を表現しているのは市場の公正な評価額であるとの考え方を理念にしていると思われるため、結果として時価での評価が望ましいとの結論になるのです。

以上3点の考え方を踏まると、固定資産を無償による譲り受けや市場の価値より低い価額での購入時には、市場の公正な価額を意味する時価による評価が適切です。
学校法人の設立理念や特質から寄付による固定資産取得の事例は多いため、学校法人会計基準第15条及び第25条で明確に規定していると考えられます。

以下、参考として時価未満での取得による仕訳例を記載します。

【設例】
教育研究用機器備品(時価100)を提供者の好意により30支払って譲り受けた。

・資金収支計算の仕訳

(借)教育研究用機器備品支出 30 (借)教育研究用機器備品支出 30

・事業活動収支計算の仕訳

(借)教育研究用機器備品 100 (貸)現金預金 30
(貸)現物寄付 70

この仕訳の結果、貸借対照表に教育研究用機器備品100が計上され、以後、耐用年数に応じて減価償却額が計上されます。また、事業活動収支計算書に現物寄付(特別収支)70が計上されるため、収支均衡目的の一部が達成されます。

【参考文献等】
・学校会計入門    (中央経済社、齋藤力夫)
・学校法人会計のすべて(税務経理協会、齋藤力夫)

(公認会計士 佐藤 弘章)


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