前回までは基本金の全体像を理解して頂くために、2回にわたって基本金の概要と意義について解説しました。基本金制度は、学校法人がそれぞれの建学の精神にのっとって、教育研究活動を行うために必要な資産を継続的に保有し、維持し続けることを担保するために重要な制度です。
基本金に組み入れられる金額は、学校法人会計基準(以下、基準といいます。)第30条第1項第1号から第4号までに定められていますが、これを一般に基本金対象資産と呼んでいます。また、基準第30条第1項第1号の規定によって組み入れられた基本金を第1号基本金といい、以下同様に第2号基本金、第3号基本金、第4号基本金といいます。基本金は、基本金組入対象資産の額を会計上で組み入れたものに過ぎず、私立学校法施行規則における基本財産と異なり、資産自体を指すものではありません。いわば、基本金に組み入れられた金額は、学校法人が最低限保有していなければならない財産の額を示しているといえるでしょう。
それでは今回から具体的に第1号基本金の概要から解説します。なお、文中意見にわたる部分は筆者に私見であることをお断りしておきます。まず、第1号基本金に組み入れるべき金額は、基準第30条第1項第1号に以下のとおり定められています。
第30条 学校法人は、次に掲げる金額に相当する金額を、基本金に組み入れるものとする。
1.学校法人が設立当初に取得した固定資産(私立学校振興助成法附則第2条第1項に規定する学校法人以外の私立の学校の設置者にあっては、同条第3項の規定による特別の会計を設けた際に有していた固定資産)で教育の用に供されるものの価額又は新たな学校(専修学校及び各種学校を含む。以下この号及び次号において同じ。)の設置若しくは既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために取得した固定資産の価額
したがって、第1号基本金の組入対象資産は、
- 学校法人が設立当初に取得した固定資産で教育の用に供されるものの価額
- 新たな学校の設置のために取得した固定資産の価額
- 既設の学校の規模の拡大のために取得した固定資産の価額
- 既設の学校の教育の充実向上のために取得した固定資産の価額
となりますが、前回の解説のとおり、教育の用に供される固定資産は、教育研究活動に直接使用する資産のほか、教育研究活動を成り立たせるために必要な固定資産として、法人本部施設や教職員の厚生施設等も第1号基本金の組入対象資産となります。また、机やいす、書架、ロッカー等、学校法人の性質上基本的に重要なもので、その目的遂行上常時多額(多量)に保有していることが必要とされる資産は、基準上「少額重要資産」といって、その学校法人において固定資産として計上すべき最低金額(例えば10万円)を下回っていたとしても、固定資産として管理し、かつ、第1号基本金の設定対象とします。
第1号基本金の組入対象資産を取得した場合には、当該固定資産の取得価額相当額を第1号基本金に組み入れますが、例えば旧学生寮を取り壊し、新たに学生寮を取得する場合(いわゆる取替更新を行う場合)、第1号基本金は、新たに取得する学生寮の取得価額(例えば150)から取り壊す旧学生寮の取得価額(例えば100:既に第1号基本金に組入済みとなっている金額)を控除した金額を組み入れるべき金額(要組入高といいます。事例の場合50=150-100)とします。逆に、旧学生寮の取得価額(例えば200:既に第1号基本金に組入済みとなっている金額)が新学生寮の取得価額(例えば150)を上回る場合には、その差額(△50=150-200)は原則として第1号基本金の取崩しの対象となります。なお、この場合、他の種類の資産を取得し、他に第1号基本金の組入対象額があるときは(例えば校舎新築による300)、上記の第1号基本金の取崩しの対象となっている金額(△50)と相殺した金額(250=△50+300)を要組入高とします。したがって、第1号基本金の組入対象資産を取得した場合の要組入高は以下のようになります。
<要組入高の考え方>
- 取得した固定資産の取得価額相当額(例えば、学生寮100)
- 取替更新の場合には、新旧の固定資産の取得価額の差額(例えば、新学生寮150-旧学生寮100=50)
- ②がマイナスの場合、第1号基本金の取崩しの対象となる(例えば、新学生寮150-旧学生寮200=△50)。ただし、他の種類の資産を取得し、他に第1号基本金の組入対象額があるときは(例えば、校舎新築300)、②と相殺した金額(△50+300=250)。
要組入高は、原則として、基本金の組入れの対象となる金額(組入高といいます。)となりますが、取得した固定資産に関し、以下のとおり基準第30条第3項に定める未組入れとすべき金額(未組入高といいます。)がある場合にはこれを除いた金額を組入高にします(組入高=要組入高-未組入高)。
第3項 学校法人が第1項第1号に規定する固定資産を借入金(学校債を含む。以下この項において同じ。)又は未払金(支払手形を含む。以下この項において同じ。)により取得した場合において、当該借入金又は未払金に相当する金額については、当該借入金又は未払金の返済又は支払(新たな借入金又は未払金によるものを除く。)を行った会計年度において、返済又は支払を行った金額に相当する金額を基本金へ組み入れるものとする。
基本金の趣旨は学校法人の運営のために基本的に必要な財産の額を自己資金で保持しようとするものであり、借入金や未払金をもとに取得した固定資産については、いまだ自己資金により取得したことにはなっていないため、実際に借入金や未払金を支払った時点で基本金の組入れを行います。したがって、学生寮の取得にあたり(例えば100)、その一部を借入金で調達したときは(例えば30)、要組入高は、学生寮の取得価額である100となりますが、当期の組入高は70(=100-30)となります。また、次期以降借入金30を返済した期に未組入れとした30を組入れします。なお、基本金の未組入れは基準(下線部分を参照)のとおり、第1号基本金についてのみ適用される点にご留意ください。
(公認会計士 芦澤 宗孝)