3月の学校会計のチカラは、教育研究経費と管理経費について検討していますが、先週までは、教育研究経費と管理経費の区分の考え方や重要な通知である雑管第118号の解説が中心でした。今週と来週は、教育研究経費と管理経費の区分に関する個別の処理方法について考えていきます。
1.科目設定上の留意点
教育研究経費と管理経費は、支出の形態別に科目を設定します(学校法人会計基準別表第一注2)。ただし、特定の目的を有する科目については、その科目を小科目として表示して、形態別分類を細分科目とする方法もあります。
例えば、創立記念事業に関する支出の場合、以下の記載方法が考えられます。
(例示) | |
創立100周年記念事業支出 | ××× |
会場費 | ××× |
渉外費 | ××× |
通信費 | ××× |
また経費は、学校運営上、頻繁に発生する特性を有しているため、学校法人会計基準の別表第一に記載されている小科目以外の適切な科目を複数設定して、経理処理することが一般的です。
なお、都道府県知事所轄の学校法人では、教育研究経費(支出)と管理経費(支出)に区分せずに「経費(支出)」の科目により計算書類を作成することが認められています。この規定についての詳細は、所轄庁等に問い合わせて下さい。
2.経費の区分及び按分
先週の学校会計のチカラで述べた雑管第118号の考え方は、通知上の7項目に該当するものは管理経費となりますが、それ以外については、明らかに管理経費と認められるものを除いては、主たる支出の使途に基づいて教育研究経費か管理経費のいずれかに含めるものとされています。
適切な按分基準を設けて教育研究用と管理用に区分できる場合は、当該按分基準を継続的に用いて区分することが好ましいです。例えば、光熱水費などの毎月発生する経費については、その費用の性格が固定的であり、管理部門(学校法人本部で発生する光熱水費)のコストと明確にすることが可能です。この場合、年間を通じて適切な基準で発生経費を教育研究経費と管理経費に按分して経理処理することが望まれます。
按分の基準として用いる指標は、①校舎の面積、②人数等が考えられます。①の校舎の面積は、減価償却額や光熱水費、火災保険料等が該当します。②の人数等は、教員と職員の在籍人数に基づく按分が考えられます。なお、近年はIT化によりコピー用紙等の使用枚数について、部門別もしくは担当者別に容易に把握できる場合がありますが、この使用実績が信頼できる情報である場合は、当該基準を按分の根拠とすることも合理的と考えられます。システムから信頼できる按分基準を容易に入手できる場合は、これを教育研究経費と管理経費の按分資料としての活用を検討することもあると思います。
3.個別項目の検討
ここからは、教育研究経費と管理経費に区分に関する個別の項目について考えていきます。細かい内容も含まれているため、実務上、経費を教育研究経費と管理経費に区分をする際の参考資料として利用して下さい。
- 役員会、評議員会、総務、人事、経理等の経費
学校法人本部の役員が業務執行上要する経費や、理事会、評議員会などに要する経費は管理経費となります。また、総務、人事、経理、財務その他法人本部などに要する経費は管理経費となりますが、これらの業務に関する各学校部門(学部含む)や附属の部門も管理経費となります。なお、評議員の報酬は、管理経費に区分することが一般的です。評議員は役員ではないため、人件費(役員報酬)とはならないからです。 - 教職員の福利厚生費
教職員の慰安、慶弔、食事提供などの福利厚生費は管理経費になります。一方、教育研究用としての福利厚生費には、学生生徒等の慶弔等に要する費用が含まれることになります。 - 学生生徒等の募集費用と入試費用
学生生徒等の募集のために要する広告費、入学案内印刷費、通信費、旅費、交際費などの経費は管理経費になります。ただし、入学選抜試験に要する会場賃借料、試験問題印刷費などの費用は、教育研究経費に含まれます。 - 印刷費用
学生生徒の募集のための印刷費用は管理経費に区分しますが、入学試験後の印刷費用については主たる使途に従って、教育研究経費と管理経費のどちらかに含めることになります。具体的に、入学願書や校納金納金票については管理経費に区分することになりますが、それ以外は教育研究経費に区分すると考えられます。 - スクールバスに係る経費
スクールバスに係る経費は原則として管理経費に該当しますが、他に代替的な交通手段がなく、幼稚園のように大多数の児童等が利用している場合には教育研究経費として処理することができるものと考えられます。 - 公開講座等に係る経費
公開講座や課外講座等の学校教育の補完と考えられるような事業の収入について、「公開講座等収入」などの小科目で計上している場合、当該講座に係る費用は補助活動支出として経理処理します。なお、この場合の支出は、その性質が教育研究上の特段な理由があると考えられるときは教育研究経費に区分することも妥当と思われます。 - 各種私学関係団体会費
学校法人が加入している各種私学関係団体の加入費、年会費参加費などは、その団体の活動目的や活動内容、学校法人の当該団体への加入の主たる目的によって、教育研究経費か管理経費かを判断することが必要です。また、会費の内容が教育研究活動に関するもの以外に、明らかに管理経費の性質が含まれている場合は、合理的に按分して経理処理することが望ましいです。 - 保険料
学校内で学生が事故等にあった場合に備えて保険に加入している場合、学生生徒のための保険料であれば教育研究経費に区分します。教職員に関する保険については、福利厚生のための支出であると思われるため、管理経費に区分することになります。 - 寄付金支出
学校法人が寄付を行う場合、管理経費に区分します。なお、経常費補助を受けている学校法人が寄付を行うことは望ましいとはいえないため、500万円以上の寄付を行った学校法人は、私立大学等経常費補助金取扱要領に基づいて、日本私立学校振興・共済事業団に「寄付金支出届出書」(様式3)を提出する必要があります。 - 国際交流の費用
国際交流の一環として外国人留学生の受け入れにあたり、学校法人が留学生の宿舎や光熱水費を負担した場合は、国際交流のための費用と考えられるため、教育研究経費に区分することが妥当です。
また、国際交流のための消耗品や旅費交通費等の運営費用については、その目的によって教育研究経費と管理経費に区分することが望ましいです。
【参考文献等】
- 学校会計入門(中央経済社、齋藤力夫)
- 学校法人会計のすべて(税務経理協会、齋藤力夫)
- 学校法人の経営に関する実務問答集(日本私立学校振興・共済事業団 私学経営情報センター編)
- 教育研究経費と管理経費の区分に関するQ&A(日本公認会計士協会、学校法人委員会研究報告第30号)
(公認会計士 佐藤 弘章)