今回も引き続き、「人件費支出」について解説します。
1.人件費支出の区分表示
本務教職員に係る人件費については、人件費総額に占める割合が大きいため、人件費支出内訳表では本俸、期末手当、その他の手当及び所定福利費に細分します。その内容を以下に示します。
本務の教員人件費と職員人件費の区分
本棒 | 学校法人の給与規程に基づく基本給 |
期末手当 | 夏期、年末、年度末の賞与など |
その他の手当 | 本棒、期末手当以外の給与
勤務手当、扶養手当、住宅手当、通勤手当、超過勤務手当、管理職手当などの諸手当 教職員の子弟が本学校に入学したことにより授業料などを減免した場合の奨学費想定額 |
所定福利費 | 私学共済、社会保険料、雇用保険などの法律に基づく 強制加入または任意加入によって学校法人が負担すべき保険料や都道府県別の私学退職金団体の負担など |
私立大学退職金 団体負担金 | 私立の大学・短期大学・高等専門学校で「公益財団法人私立学校退職金財団」に支払う負担金 |
兼務教職員に係る人件費については、上記のような区分はせずに、「兼務教員」及び「兼務職員」としてまとめて表示します。
役員報酬支出については、教職員の人件費とは別に独立した科目とされています。役員報酬には、毎月の報酬のほか、期末手当や通勤手当などの諸手当も含まれます。なお、役員が職員(例えば事務局長など)を兼務している場合には、当該学校法人の職員給与表あるいは職員給与の支給実態から、その職位(例えば事務局長など)からして妥当とされる額を職員人件費とし、これを超える額については役員報酬として取り扱うことが妥当と考えられます。この計算によって役員部分の給与が生じない場合には役員報酬の支給がないものとして取り扱うことになります。
評議員に対する報酬については、評議員は役員に該当しないと解されているため、役員報酬には含まれないことは前回の記事で解説しました。なお、評議員に対する報酬は、私学法の趣旨からも高額な報酬の支払は妥当ではなく、通常は評議員会に出席したことに対する謝礼もしくは交通費を支弁する程度の支給に留めている場合が多いと思われます。この場合の支給額については、管理経費の報酬委託手数料、旅費交通費などの適当な科目で処理し、かつ、部門は「学校法人」部門に計上します。ただし、知事所轄学校法人で、一学校のみ設置する場合は、当該学校の管理経費とします。
退職金支出には、教職員の退職金のほか、役員に対する退職金または退職慰労金も含まれます。
2.私学退職金団体及び私大退職金財団に対する負担金等の会計処理
私学の教職員の退職金については共済制度があり、全国の都道府県ごとに私学退職金社財団が、また私立大学の教職員のための「公益財団法人私立大学退職金財団」が設置されています。各団体の運営方法は、それぞれの定款、寄附行為、退職資金事業規程などの業務方法書等に従っており一律ではありません。したがって、これらの団体に対して学校法人が支出する負担金又は学校法人が受ける交付金は、各都道府県の助成方針又は私学退職金団体の資金事情により異なります。一方で、私大退職金財団に加入している学校の教職員に係る負担金又は受け取る交付金については、都道府県単位の私学退職金団体と異なった取扱いが定められています。以下では、これら負担金の取扱いについて解説し、受け取り交付金の処理については後日の連載において解説します。
(1) 都道府県単位の私学退職金団体に加入している場合の取扱い
学校法人が負担する私学退職金団体に対する入会金、登録料及び教職員の標準給与に対する負担金(出資金、会費又は掛金等の名称のものも含む。)等の支出については、「(大科目)人件費支出」に属する小科目のうちに、たとえば、「所定福利費支出」、「私学退職金社団掛金支出」等の細分科目を設けて処理します(JICPA実務指針第44号1-1-4)。
(2) 私大退職金財団に加入している場合の取扱い
学校法人が私大退職金財団に支払う負担金(加入金(財団設立当初において支出した加入金相当額の寄付金を含む。)、登録料、掛金及び特別納付金をいう。)は、「(大科目)人件費支出」に属する小科目のうちに適当な細分科目、例えば、「私立大学退職金財団負担金支出」等を設けて処理します(JICPA実務指針第44号1-1-3)。なお、学校法人が都道府県単位の私学退職金団体と私大退職金財団の両方に加入している場合には、私学退職金団体に対する所定福利費とは別に区分計上する必要がありますので注意してください。
3.人件費支出の区分表示に係るその他の留意点
人件費支出に係るその他留意点については、日本公認会計士協会の学校法人会計問答集(Q&A)を確認しながら解説します。
(1) 司書教諭の人件費
司書教諭は、学校図書館法第5条によって教諭をもって充てることとされていますので、この人件費は教員人件費に該当することになります(JICPA問答集(Q&A)第3号)。なお、司書教諭以外で図書館勤務の職員は職員人件費支出に計上されることになります。
(2) 非常勤講師に対する卒論の指導料
学生に対する教育活動の一環であって、大学との雇用関係から生じる役務の提供に対する報酬であるから人件費に含められます。人件費支出内訳表では、本務教員の場合には本俸ではないので「その他の手当」に記載されますが、非常勤講師は兼務教員となるので、正規の給与に加算して表示されることとなります(JICPA問答集(Q&A)第3号)。
(3) 非常勤講師に支払う旅費
講師として出校するための交通費は通勤手当となります。人件費支出内訳表上では非常勤講師等兼務教員に係る人件費支出については、本務教員と異なり、その細分科目が示されていないので、この通勤手当については、本来の報酬に合算して記載します。
学務、校務等のための出張費は、旅費交通費として、その用務の内容に従い、教育研究経費または管理経費として処理されることになります(JICPA問答集(Q&A)第3号)。
(4) 役員に対する退職金
学校法人と役員(理事及び監事)との法律関係は民法の委任に関する規定に従うこととなっているので、受任者(役員)は、特約がなければ、委任者(学校法人)に対して退職金を含む報酬を請求することができない(民法648条)とされています。したがって、役員の地位にあるというだけで当然に報酬は発生しないと定める学校法人も多くあることから、役員退職金についても同様に解することが考えられます。
しかしながら、学校法人の発展に多大な貢献をした理事長などの創業者に対して退職慰労金を支出することは社会通念上許容されるものであるとも解されます。したがって、学校法人内での一定の承認手続、例えば理事会における支給額の承認や役員退職慰労金に関する支給規程への準拠などを経た上での役員退職慰労金の支出であれば、一定の合理性が担保された支給として許容すべきと考えます。ただし、学校法人の公益性からして、その財政状態を毀損してまで役員退職慰労金を支出することは認め難く、理事会の承認を経たからといって無秩序に多額な退職慰労金を支出することは厳に慎むべきであると考えます。
なお、役員に対する退職金も、一般の教職員に対する退職金とほぼ同様のものとして一般に認識されており、その性格から、人件費支出内訳表の「退職金支出」のうちの「職員」の次に「役員」の細分科目を設けて記載することが妥当と考えられます(JICPA問答集(Q&A)第3号)。
公認会計士 津村 玲