今月は、学校法人の内部統制について解説します。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。
学校法人の内部統制については、少し古くなりますが、日本公認会計士協会より「学校法人の内部統制について」(昭和42年5月19日 学校会計委員会報告第1号、以下報告第1号といいます。)が公表されています。報告第1号では、当時まだ新しい概念であった内部統制について、学校法人でも以下のとおり、その必要性や採用または強化を促しています。
<内部統制の必要性>
学校法人は(中略)一個の経済単位として、その資金は、合理的かつ有効に運用されなければならない。内部統制は、もと営利企業における会計管理の展開として発達した制度であるが、そこには、営利企業だけでなく、一般に資金の運用を伴う組織の運営に役立つ原理が多々見いだされる。学校法人は、その公共性にかんがみ、営利企業よりも一層みずからを律して、公正かつ有効な運営に意を用いなければならない。まして、近時、学校法人について、その財政の窮迫、国庫助成の拡大、監査の必要性等の諸問題が広く社会的関心を呼んでいる折から、学校法人は、その独自性を勘案しながら、正しい理解に立って、内部統制制度を積極的に採用または強化し、その自主的な管理体制を確立する必要がある。
内部統制の定義は、学校法人会計では明らかにされていませんが、営利企業においては、以下のように定義されています(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準 最終改正平成23年3月30日 企業会計審議会)
<内部統制の定義>
内部統制とは、基本的に、①業務の有効性及び効率性、②財務報告の信頼性、③事業活動に関わる法令等の遵守並びに④資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいい、㋐統制環境、㋑リスクの評価と対応、㋒統制活動、㋓情報と伝達、㋔モニタリング(監視活動)及び㋕IT(情報技術)への対応の6つの基本的要素から構成される。
内部統制の4つの目的や6つの基本的要素の詳細は次回に解説したいと思いますが、報告第1号においては、学校法人においても内部統制制度と内部けん制組織の確立が以下のとおり記述されています。
<内部統制制度の確立>
内部統制が、具体的にどのような組織、方法または手続等を意味するかには諸説がある。しかし、内部統制は、本来、会計による財産の保全と管理の機能を保証するための組織を起点として発達したものであり、内部統制制度を形づくる種々の組織、方法または手続等は、いずれも何らかの意味で会計と結びつくものである。予算制度は、各学校法人を通じて例外なく行なわれている内部統制制度の重要な一環である。しかし(中略)ここではおもに、内部統制上不可欠の組織としてあげられる内部けん制組織と内部監査制度とを対象とし、その学校法人の組織上における確立に役だたせようとするものである。
<内部けん制組織>
一般に内部けん制とは、一つの仕事を二人以上の者に分担させて、相互の照合により、おのずから不正、過失、無駄を発見防止する仕組みを意味するものと解されている。これは、事務組織上の一原則であり、事務分掌を立案するにあたって常に考慮しなければならない要件である。この原則を会計組織との結びつきにおいて活用し、会計管理に役だたせるためには、まず第一に記録を担当する会計業務と他の執行業務との担当を分割して、それぞれ独立の部署に行なわせ、更に執行業務についても、保管に関する業務とその他の業務とを分離することなどが要請される。
例えば、学費の収納を行なう者または部課と、学費の収納及び金銭の出納を記録する者または部課は、それぞれ別にしなければならない。また、購買関係についても、購入先の決定、発注、検収、支払い、保管管理等の諸業務は、これを別の責任単位のもとに分けなければならない。
もっとも、このような業務とそれに伴う職務権限の分立は、学校法人の規模やその他の諸条件によって態様を異にするものであって、一律のひな型を設定することは困難であるが、要は、相互けん制の機会を多く設けることによって、不正、過失、無駄等の発見防止に役だたせて、業務における正当性と会計記録における真実性の確保を図るものである。有効な会計管理や真実の会計報告は、内部けん制を原理とする事務組織を基盤とすることによって、はじめて可能になるといえる。
一般に内部けん制を強化しようとするとき、とかく、事務の煩雑を招きやすい弊がある。しかし、内部けん制の強化は、必ずしも事務簡素化の要請と相反するものではなく、職務権限の各独立した部署間相互の緊密な連絡関係を保持することによって、その弊害を未然に防止することができる。
以上
永和監査法人
公認会計士 芦澤 宗孝