今回は前回に引き続き、「学校法人に関係する法令」について解説します。前回は学校教育法及び私立学校法について解説しました。今回は私立学校振興助成法の概要説明と学校法人会計基準との関連性などを解説します。
なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する法人の公式的な見解ではないことを申し添えます。
1.私立学校振興助成法
⑴ 私立学校振興助成法の概要
昭和45年度に創設された私立大学等経常費補助金は、私立学校法第59条の「国又は地方公共団体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し必要な助成をすることができる。」を根拠としていましたが、さらなる私学助成の充実を図るため、昭和50年に議員立法で制定されたのが、私立学校振興助成法(以下、「助成法」とします。)です。
これにより私立大学等経常費補助金並びに私立高等学校等経常費助成費補助金交付の法的根拠が整備され、また学校法人に対する税制上の優遇措置など私学振興施策の充実が図られることになりました。
当時の私立学校の財政状況はきわめて脆弱で、物価の高騰や人件費の上昇による経常費の増大が私学側の自主的努力による収入の伸びを上回る状況にあり、支出超過が増幅する傾向にありました。
また教育研究条件は、例えば私立大学でみると高等教育に対する国民の需要が急速に高まるなかで入学者の大半を受け入れざるをえなかったという事情もあり、いわゆる水増し率や教員1人当たり学生数でみた教育条件は国・公立学校と比較してなお相当な格差がありました。
これに伴い父兄の学費負担も次第に重くなり、私立学校の特色ある教育の実施を困難にさせるのみならず、教育水準の低下をも招くおそれがありました。
このような状況に対処するためには、法律により、私立学校の振興助成についての国の基本的姿勢と財政援助の基本的方向を宣明するとともに、私立学校も自らその経営基盤の強化と教育水準の向上に努めることとする必要がありました。
また、財政援助についての法的保障に伴い、補助金がより適正かつ有効に使用されることを担保するための措置をとる必要がありました。以上がこの法律が制定された趣旨であると言われています(私立学校振興助成法等の施行について 昭和51年4月8日文部事務次官通達参照)。
制定に際しては、日本国憲法第89条の「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。」との関係が論点の一つでしたが、私立学校振興助成法、学校教育法、私立学校法に定める所轄庁の監督規定により私立学校は「公の支配」に属するとみなされ、適法と解釈されています。
助成法第3条では、学校法人の責務として「学校法人は…自主的に財政基盤の強化を図り…修学上の経済的負担の適正化を図るとともに…教育水準の向上に努めなければならない」としており、また、補助金適正化法第3条では、関係者の責務として「…補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに留意し、法令の定及び補助金等の交付の目的又は間接補助金等の交付若しくは融通の目的に従って誠実に補助事業等又は間接補助事業等を行うように努めなければならない」旨規定しています。
学校法人のこうした責務とさらに現下の厳しい国の財政状況の下で多額の公費が私立学校に投入されている意義を十分踏まえ、私立学校が効率的な学校経営を図るとともに教育水準の向上に努め、建学の精神を生かした特色ある学校づくりに格段の努力を傾注すべきことが関係各方面から期待されています。
⑵ 助成の内容
助成法には次の各補助金が定められています。
①私立大学及び私立高等専門学校の経常的経費についての補助(第4条)
国は、大学又は高等専門学校を設置する学校法人に対し、当該学校における教育又は研究に係る経常的経費について、その二分の一以内を補助することができる。
②学校法人が行う学資の貸与の事業についての助成(第8条)
国又は地方公共団体は、学校法人に対し、当該学校法人がその設置する学校の学生又は生徒を対象として行う学資の貸与の事業について、資金の貸付けその他必要な援助をすることができる。
③学校法人に対する都道府県の補助に対する国の補助(第9条)
都道府県が、その区域内にある幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校又は幼保連携型認定こども園を設置する学校法人に対し、当該学校における教育に係る経常的経費について補助する場合には、国は、都道府県に対し、政令で定めるところにより、その一部を補助することができる。
④その他の助成(第10条)
国又は地方公共団体は、学校法人に対し、①から③に規定するもののほか、補助金を支出し、又は通常の条件よりも有利な条件で、貸付金をし、その他の財産を譲渡し、若しくは貸し付けることができる。
⑤間接補助(第11条)
国は、日本私立学校振興・共済事業団法 (平成九年法律第四十八号)の定めるところにより、この法律の規定による助成で補助金の支出又は貸付金に係るものを日本私立学校振興・共済事業団を通じて行うことができる。
2.助成法と学校法人会計基準との関係
助成法が昭和51年4月1日から施行され、国又は地方公共団体による私立学校への補助金の支出について法的整備がなされることとなりましたが、この補助金の源泉となるのは公費たる税金であり、私学助成に対し、広く国民の理解を得るためには、私立学校の経理を適正かつ標準的に処理・開示することが不可欠です。
この要請に応えるために学校法人会計基準が制定され、経常費補助金の交付を受ける学校法人はこれに従って経理をすることとなりました。助成法第14条第1項は「第4条第1項又は第9条に規定する補助金の交付を受ける学校法人は、文部科学大臣の定める基準に従い、会計処理を行い、貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類を作成しなければならない。」としています。また、同条第2項は第1項の貸借対照表、収支計算書等の書類のほか、収支予算書の所轄庁への提出を求めています。
3.助成法と公認会計士又は監査法人による会計監査
2に記載の通り、学校法人の作成する計算書類は文部科学大臣の定める基準(学校法人会計基準)に従って作成されることとなり、真実かつ明瞭な計算書類が作成される土壌はできあがりましたが、これをもってすべての計算書類が適正であるとの保証はありません。
そこで計算書類の適正性を担保するため、公認会計士又は監査法人の監査報告書の添付が義務づけられています。ただし、文部科学大臣所轄の学校法人にあっては、当面の間、一会計年度に交付される補助金の額が、1,000万円未満の場合には、公認会計士等の監査報告書の添付をしないことができ、また知事所轄の学校法人では、これに準じて所轄庁が定めることになっています (助成法第14条第3項、私立学校振興助成法等の施行について第3の2)。 なお、専修学校高等課程に対する運営補助金や専門学校に対する運営補助金などについては、東京都を含め一部の地方公共団体で公認会計士等の監査を義務付けている場合がありますのでご留意下さい。
公認会計士等の監査報告書には、監査の対象、計算書類に対する理事者の責任、監査人の責任、監査意見を記載し、意見を表明しない場合はその旨を監査報告書に記載しなければなりません。また、必要に応じて追記情報(強調事項及びその他の事項)等が意見の表明とは明確に区分して記載されます。
なお、公認会計士等の監査と監事監査との関係が問題となりますが、私立学校法では公認会計士等による監査は求められておらず、その役割は、監事が担うこととなっています。
したがって、補助金1,000万円以上の助成法上の監査対象学校法人であるか否かに関わらず、監事が財務及び教学面における第一次的な監査責任を負うこととなり、公認会計士等は助成法上の監査対象学校法人であっても監事に次ぐ第二次的な監査責任を負う点で、両監査の範囲・責任の程度は異なります。
[参考]
学校法人会計のすべて(税務経理協会)
(永和監査法人 公認会計士 津村 玲)