前回までは、学校法人にかかわる公認会計士監査のうち、私立学校振興助成法に基づく監査と寄付行為等の認可申請時の財産目録監査について説明しました。
今回は、公認会計士監査とかかわりのある監事監査や内部監査について解説していきます。
第1回のおさらいになりますが、監事は学校法人の業務又は財務の状況について監査を行い、監査報告書を作成し提出する必要があります(私立学校法第37条第3項第3号)。
一方で、公認会計士は私立学校振興助成法に基づいて収支計算に関する書類について監査を行います(私立学校振興助成法第14条第3項)。
そして、監事が実施する財務の状況に関する監査をより充実させる観点から、監事は公認会計士と連携して監査をすることが望ましいとされています。
以下では、日本公認会計士協会から公表されている「学校法人の監査人と監事の連携のあり方等について」(学校法人委員会研究報告第17号)を参考にして、監事と公認会計士の連携のあり方について考えてみたいと思います。
1.監事監査と公認会計士監査
私立学校法では、監事は学校法人の業務及び学校法人の財務の状況を監査し、監査報告書を作成の上、会計年度終了後2か月以内に理事会及び評議員会に報告することとされています。
監事の当該職務は、公認会計士による計算書類の監査によっても代替されることはありませんので、監事は自ら学校法人の財務の状況を監査することが必要となります。
また、公認会計士による学校法人の計算書類の監査は私立学校振興助成法を根拠として行われるものであり、学校法人においては、公認会計士から監事への報告制度等は明文化されていません。
2.公認会計士監査と連携する意義
監事は自らの職務として学校法人の財務の状況を監査する必要がありますが、会計・監査の 専門知識をもつ公認会計士と連携を図ることにより、公認会計士の専門知識を自らの監査に役立てることができると考えられます。
具体的には、公認会計士は監査を行うにあたり、学校法人や学校法人を取り巻く環境を理解し、学校運営に係る事業上のリスク等を検討することとされており、公認会計士監査と連携を図ることで、公認会計士が入手した情報を自らの監査に役立てることができ、より効率的に監査を実施することが可能となります。
また、公認会計士は、会計監査の過程で発見された学校法人の課題等についても知りうる立場にありますので、事前に決算内容に特段の問題が存するかどうかについて確認することにより、監事の監査報告書と公認会計士の監査報告書との間に齟齬が生じるような事態を回避することができると考えられます。
一方で、監事は自らの職務として、理事会や評議員会に出席し、理事の業務執行の状況を把握している立場にあり、公認会計士は監事と連携を図ることで、より詳細な理事の業務執行の状況を理解することが可能となる。
監事監査と公認会計士監査との連携については、文部科学省のHPにおいても、監事監査をより充実させる観点から連携するべきとされている。
3.具体的な連携の方法
学校法人においては、監事は財務の状況の監査を自ら行い、公認会計士は計算書類の監査を行いますが、両者が連携を図ることで、お互いにより深度のある監査を行うことが可能になると考えられます。以下では、上記研究報告第17号を基にして、具体的な連携のあり方をご紹介します。
(1)監査計画時の連携
監事は自らの監査方針・監査計画を公認会計士に説明するとともに、公認会計士から監査計画の概要や監査重点項目等について説明を受け、以下のような事項について情報交換することが考えられます。
- 期中監査計画及び期末監査計画の内容
- 重要な監査手続の内容及び実施時期
- 往査場所、時期、監査日数、監査従事者数
- 会計・監査上の懸案事項、内部統制上の問題点
- 重要な会計方針や会計処理に関する事項
(2)期中監査時の連携
監事と公認会計士は、監査の実施状況、会計・監査上の懸案事項や内部統制上の問題点及びその改善状況等について情報交換する。
(3)監査報告に際しての連携
監事と公認会計士は、監査の実施状況について情報交換するほか、公認会計士監査で発見された計算書類等の記載誤りやそれに関する判断について、公認会計士から報告を受けることが考えられます。
(4)その他の連携
上記のほか、監事と公認会計士は双方の監査に影響を及ぼしうる重要な事項についての情報交換、監事が新たに選任されたとき又は公認会計士が交代したときの意見交換等を行うことが考えられます。
(公認会計士 大島隆光)