11月の最終週は事業報告書を含む財務情報の公開について解説していきます。
Ⅰ.財務情報の公開
学校法人は、その公共的・公益的な性格から補助金の交付や税制上の優遇措置を受けており、広く社会に対してアカウンタビリティを果たす観点から、財務情報を公開することが求められています。私立学校法では、学校法人は財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書、及び監事の監査報告書を各事務所に備え置き、利害関係者から閲覧請求がされたときには、正当な理由がある場合を除き、閲覧に供するものとされています(私立学校法第47条第2項)。
平成16年の私立学校法の改正においては、補助金の交付の有無や規模の大小にかかわらず、すべての学校法人に財務情報を公開することが義務付けられました。
Ⅱ.閲覧の対象者
私立学校法第47条第2項では、閲覧の対象者を「当該学校法人の設置する私立学校に在学する者その他の利害関係人」としています。この「利害関係人」とは具体的には以下の者を該当します。
- 当該学校法人の設置する私立学校に在学する学生生徒やその保護者
- 当該学校法人と雇用関係にある者
- 当該学校法人に対する債権者、抵当権者
また、当該学校法人の設置する私立学校への入学希望者も、学校法人において入学する意思が明確に確認できると判断したときは利害関係人に該当するものとされています。
Ⅲ.閲覧を拒むことができる正当な理由
学校法人は、閲覧請求がなされたときでも正当な理由がある場合には、閲覧を拒むことができるものとされています。正当な理由とは具体的には以下の場合等です。
- 就業時間外や休業日に請求がなされた場合等、請求権の濫用にあたる場合
- 当該学校法人を誹謗中傷することを目的とする場合等、明らかに不法、不当な目的である場合
- 公開すべきでない個人情報が含まれる場合
また、正当な理由がある場合であっても、例えば、個人情報が含まれる部分を除いて閲覧に供すれば問題が生じないときには、その部分を除いて閲覧に応じるなど積極的な情報公開が望ましいと考えられています。
Ⅳ.情報公開の方法
私立学校法では、財務情報等の公開の方法として、閲覧させるものとしています。これは、在学者等の請求に応じて計算書類等を閲覧させることを義務付けているものであり、例えば、計算書類等のコピーを交付することまでは求められていません。
もっとも、在学生や入学志願者の方などが、学校法人の事業や財務の状況を理解できるように、広報誌等の刊行物に学校法人の事業や財務の状況を掲載することやホームページからアクセスできるようにするなど、各学校法人が積極的に情報公開することが望まれています。
Ⅴ.罰則について
学校法人が、計算書類や事業報告書等の備付けを怠り、又は記載すべき事項を記載せず、若しくは不実の記載をしたときは、私立学校法第66条第4号の規定により、理事又は監事は20万円以下の過料に処せられます。
Ⅵ.財務情報の公開の状況
文部科学省では、毎年所轄する学校法人を対象に、学校法人の財務情報等の公開状況に関する調査を行い、その結果をホームページで公表しています。そこで、平成27年度に行われた調査の結果から、財務情報の公開の状況をみてみます。
一般公開の状況・方法
公 開 方 法 | 大学法人 | 短大法人等 | 合 計 |
学校法人のホームページに掲載 | 555(99.8%) | 110(100%) | 665(99.8%) |
広報誌等の刊行物に掲載 | 300(54.0%) | 33(30.0%) | 333(50.0%) |
学内掲示板等に提示 | 66(11.9%) | 21(19.1%) | 87(13.1%) |
(「平成27年度 学校法人の財務情報等の公開状況に関する調査結果について」より)
上表のとおり、文部科学大臣所轄の学校法人では、ほぼすべての法人がホームページにより財務情報等を公開しています。そのうち大部分の学校法人において、ホームページで財産目録、貸借対照表、収支計算書、事業報告書(又はこれらの書類の概要)、監事の監査報告書を掲載し公開しています。
Ⅶ.今後の情報開示の在り方
平成28年11月現在、文部科学省では私立学校等の振興に関する検討会議を設置し、私立学校のガバナンスのあり方などが議論されています。検討会議では、学校法人の更なる情報開示について、閲覧の対象となる情報の範囲や閲覧対象者の範囲などに関して検討が進められています。学校法人の公共的な性格を鑑み、学校法人に関する情報をより積極的に公表していく方向で議論されていますので、情報公開にかかわる制度の今後の動向についてもご留意ください。
(公認会計士 大島 隆光)