11月は学校法人が作成する事業報告書をとりあげます。平成25年の学校法人会計基準の改正により、事業報告書の記載内容が見直されています。また、事業報告書の財務の概要に記載される財務比率も変更がありましたので解説していきます。今週は入門編として事業報告書の大まかな概要を説明していきます。
Ⅰ.事業報告書を作成する目的
平成16年の私立学校法の改正により、学校法人は事業報告書を含む収支計算書や監事監査報告書を作成し、学校法人の各事務所に備え置くことになりました。事業報告書の作成の目的は、財務書類だけでは専門家以外の者に容易に理解できない場合が多いと考えられることから、財務書類の背景となる学校法人の事業方針やその内容を分かりやすく説明し、理解を得るためであるとされています(16文科高第304号通知より)。
計算書類等や事業報告書は、在学生をはじめとした学校法人の利害関係者に公開されるものですので、計算書類の一般の利用者がその記載内容を十分に理解できるように作成することが望ましいといえます。
Ⅱ.事業報告書に記載する事項
文部科学省は、平成16年の私立学校法の改正時に、事業報告書に記載する事項を公表しています。事業報告書の主な記載事項としては、以下の項目が例示されています。
1.法人の概要
- 設置する学校・学部・学科等
- 当該学校・学部・学科等の入学定員、学生数の状況
- 役員・教職員の概要 等
2.事業の概要
- 当該年度の事業の概要
- 当該年度の主な事業の目的・計画
- 当該計画の進捗状況 等
3.財務の概要
- 経年比較 等
また日本公認会計士協会では、学校法人が事業報告書を作成するときの参考とするため、「学校法人における事業報告書の記載例について」(学校法人委員会研究報告第12号)を公表し、事業報告書の記載する具体的な内容について、例示を含めて紹介しています。以下のⅢ以降では、上記報告をもとに事業報告書の主な記載内容を解説します。
Ⅲ.事業報告書の具体的な記載内容
1.法人の概要について
研究報告第12号では、法人の概要として、①建学の精神、②学校法人の沿革、③設置する学校・学部・学科等、④学校・学部・学科等の学生数の状況、⑤役員の概要、⑥評議員の概要、⑦教職員の概要等を記載するものされています。
④の学生数や⑦の教職員の人数については、学校法人は毎年5月1日現在の人数を所轄庁等に報告されていますので、当該日時点の人数を記載します。
また、⑤、⑥の役員や評議員の状況は、当該会計年度の末日、又は当該年度の計算書類の承認に係る理事会開催日を基準にして記載するものされています。
2.事業の概要について
事業の概要では、①事業の概況、②主な事業の目的・計画及びその進捗状況、③施設等の状況等を記載するものとされています。施設の状況では、主な施設設備について規模や現在の使用状況、及び将来における主要な施設設備の取得又は処分の計画、進捗状況等を記載します。
上記のほか、当該年度中に学校法人の合併又は学校を分離する契約を締結するなど、学校経営にとって重要な契約がある場合には、その旨と内容を記載します。
3.財務の概要について
財務の概要では、①当該年度の決算の概要、②経年比較や主な財務比率による分析を記載します。また、収支及び財産の状況をより分かりやすく伝えるため、学校法人が保有する有価証券や借入金等の重要な項目、収益事業の状況等を記載します。
- 当該年度の決算の概要
当該年度の決算の概要では、貸借対照表の状況と収支計算書の状況に分けて当該年度の決算の概要を記載します。貸借対照表の状況には、当該年度の資産、負債、純資産の主な増減内容やその原因について記載します。また、収支計算書の状況には、収入、支出の主な内容、当該年度の算や前年実績と比較した場合の著しい差額の内容、収支差額の状況などを記載します。 - 経年比較や主な財務比率による分析
経年比較では、貸借対照表や収支計算書の大科目や主な科目について、当該年度を含む5年程度の推移を記載します。
また主な財務 比率についても5年程度の推移を記載し、計算書類の利用者が、他の学校法人の財務比率と比較等をすることにより、財務の状況をより的確に理解できるように分析を行います。
(公認会計士 大島 隆光)