先週は学校法人会計における基本金について、企業会計の資本金や社会福祉法人会計の基本金と比較しながら、その概要を解説しました。今週は、学校法人会計における基本金について、その意義について解説しましょう。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。
学校法人会計における基本金は、以下のとおり、学校法人会計基準(以下、「基準」といいます。)第29条に規定されていることは先週説明しました。
第29条 学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その事業活動収入のうちから組み入れた金額を基本金とする。
ここで、「諸活動の計画に基づき必要な資産」とは、学校法人の基本的諸活動であるところの教育研究活動に必要な資産をいいます。この場合の教育研究活動に必要な資産とは、これを広く解し教育研究活動に直接使用する資産のほか、教育研究活動を成り立たせるために必要な固定資産として、法人本部施設・教職員の厚生施設等も基本金組入れの対象の資産となります。
したがって、
- 有形固定資産のみならず、借地権、電話加入権、施設利用権などの無形固定資産
- 学生寮、食堂、売店等学生のための福利厚生施設など
も対象となります。ただし、投資用の資産や減価償却引当特定資産や退職給与引当特定資産、収益事業用の資産等は除かれます。
また、「継続的に保持する」とは、ある資産が提供するサービス又はその資産の果たす機能を永続的に利用する意思を持って、法人がその資産を所有するということです。したがって、継続的して保有することを予定しない資産については、たとえ教育用の固定資産であっても、基本金の組入れ対象資産には該当しません。また、資産を取得後、法人の経営の合理化、将来計画の見直し等により当該資産を永続的に利用する必要がなくなった場合には、その時点で「継続的に保持する」ことに該当しなくなったと考え、基本金の取崩し対象にすると考えられます。
Q
当法人では校舎の建て替えにあたり、2年間プレハブ仮設校舎を設置し使用する予定ですが、建築費用1億5千万円については経費支出とすべきでしょうか、それとも施設関係支出とすべきでしょうか?また、仮設校舎は基本金の対象とすべきでしょうか?
A
仮設校舎とはいえ当該建物は、1年以上使用しますので、「(大科目)施設関係支出」、「(小科目)建物支出」として処理し、減価償却期間は2年とすればよいでしょう。また、当該仮設校舎は、基本金の対象とし、2年後除却することも考えられますが、当初より継続的に保持する予定はないのですから、基本金の対象としなくても良いでしょう。
「その事業活動収入のうちから組み入れた」とは、今回の基準の改正により収支の均衡状態を表示する計算書類は「消費収支計算書」から「事業活動収支計算書」に変更され、計算書類上では、収入から基本金組入額を先に控除するという方式ではなくなりましたが、基本金組入額控除後の収入と支出の均衡の状態を明らかにするという従来からの考え方は維持されています。
従来の消費収支計算書では、教育研究を永続的に維持する仕組みを収支計算に取り入れ、基本金組入れ後の長期的な収支の状況を把握するのに適した収支差額のみ表示していましたが、事業活動収支計算書においては、長期的な収支の均衡状態に加えて、基本金組入れ前の収支差額を表示することにより、毎年度の収支の均衡状態も計算書類上把握できるように変更されています。
なお、私立学校施行規則では基本金と似ている言葉として基本財産がありますが、基本金対象資産と基本財産は、以下のとおり、大要において両者は一致していますが、決して、両者は同一概念ではないことにご留意ください。
基本金対象資産 |
基本財産等 |
|
根拠 | 学校法人会計基準第30条1項 | 私立学校法施行規則第2条第6項 |
内容 | ① 学校法人が設立当初に取得した固定資産で教育の用に供されるもの又は新たな学校の設置若しくは既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために取得した固定資産(第1号基本金)
② 学校法人が新たな学校の設置又は既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭その他の資産(第2号基本金) ③ 基金として継続的に保持し、かつ、運用する金銭その他の資産(第3号基本金) ④ 文部科学大臣の定める恒常的に保持すべき資金(第4号基本金) |
基本財産とは、学校法人の設置する私立学校に必要な施設及び設備又はこれらに要する資金をいう。運用財産とは、学校法人の設置する私立学校の経営に必要な財産をいう。
通常、基本財産には、貸借対照表上の固定資産のうち有形固定資産の各科目を計上する。運用財産には貸借対照表上のその他の固定資産及び流動資産の各科目を計上する。 (財産目録の作成に係る基本方針 平成27年3月 高等教育局私学部 私学行政課法人係) |
(公認会計士 芦澤 宗孝)