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学校会計のチカラ
退職給与引当金の計算3

前回は都道府県別の私学退職金団体と私大退職金財団の退職給与引当金の算定方法について比較しながら解説しました。今回はそれぞれの団体における具体的な退職給与引当金の計上方法及び交付金等の会計処理と表示について解説します。

1.私学退職金団体における退職給与引当金の計上方法及び交付金等の会計処理と表示原則

(1) 会計処理の統一
学校法人の退職給与引当金の計上基準については、加入している退職金団体にかかわらず、平成23年2月17日付けの文科省第11号通知(「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」,22高私参第11号 「以下「第11号通知」)の発出により会計処理の統一化が図られています。すなわち、第11号通知では、私大退職金財団又は私学退職金団体に加入している学校法人は、退職給与規程等に基づいて算出した退職金の期末要支給額の100%を退職給与引当金として計上することとされています。
学校法人会計基準では、従来、退職給与引当金の計上基準について、その取扱い又は処理方針が示されていないことから、これまで各学校法人に委ねられてきました。しかし、近年、学校法人の財務安全性への関心が高まる中、その財務情報等の公開の進展や、会計処理等の取扱いが各学校法人によって異なることによる不明確さやわかりにくさの解消の観点から、平成23年度の計算書類から退職給与引当金の会計処理について統一した取扱いとすることとしました(第11号通知)。そして、この通知に従った実務における具体的な指針を示すため、日本公認会計士協会は、「退職給与引当金の計上等に係る会計方針の統一について(通知)」に関する実務指針」(学校法人委員会実務指針第44号,平成26年12月2日(以下、「実務指針第44号」))を公表しています。

(2) 退職給与引当金の計上基準
各学校法人の退職給与規程等に基づいて算出した退職金の期末要支給額の100パーセントを基にして退職給与引当金を計算します。この退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した額とは、いわゆる事前積立方式を採用している私学退職金団体に加入している場合には、退職金の期末要支給額の100%から私学退職金団体からの交付金の額を控除した、学校負担要支給額を意味します(実務指針第44号1-1)。つまり、年度末に教職員が退職したと仮定した場合に私学退職金団体から給付されるべき交付金相当額は、退職給与引当金の設定対象額から除外するという考え方です。

(3) 私学退職金団体から受け取る交付金の会計処理
学校法人が教職員の退職時に都道府県別の私学退職金団体から受け取る交付金は、「(大科目)雑収入」のうちに適当な小科目(たとえば、「私学退職金社団交付金収入」など)を設けて処理します。なお、事業活動収支計算書において、当該教職員に係る「退職金」とこれに係る「雑収入」中の交付金の額とを相殺して表示することができます(実務指針第44号1-1-4)。その理由は以下のとおり、財政方式として私学退職金団体が採用する事前積立方式にあります。
事前積立方式とは、将来必要となる退職資金を事前に積み立てておき、それを退職時に支払うというものです。この事前積立方式を採用する私学退職金団体において、学校法人が受け取る退職資金交付金は、学校法人自らが負担した掛金を原資としています。したがって、学校法人が受け取る退職資金交付金と支払われる退職金とは対応関係があり、相殺表示が認められることとなっています。
相殺表示の場合、事業活動収支計算書上は「退職金社団(財団)交付金」と「退職金」が相殺され、学校法人が当該交付金に上乗せして支給した退職金のみが表示されます。ただし、原則としては、上記の両建表示が望ましいと考えます。
近年、経営の悪化により、都道府県別の私学退職金団体に積み立てている退職資金と退職金期末要支給額とを同額にする法人もありますが、その場合には、退職給与引当金は設定不要となります。

(4) 私学退職金団体における「みなし退職金制度」の会計処理
一定年齢又は一定の加入年数を超えた教職員に対して私学退職金団体から退職金が交付される制度である、いわゆる「みなし退職金制度」(教職員が学校法人の定年を迎えるよりも早く退職金団体における定年に該当すると、交付金が学校法人に支給される制度)については、各都道府県において会計処理が区々となっており、統一した会計処理はなされていません。
この「みなし退職金」については、都道府県別の私学退職金団体によっては、仮に退職者に支払わないこととなった場合においても返還を求められないため、「雑収入」の「退職金財団資金収入」で処理するという所轄庁からの質疑応答事例(「学校法人会計質疑応答集」、埼玉県総務部学事課 平成26年2月)もありますので、みなし退職金に係る交付金収入については所轄庁の指示に従って会計処理して下さい。そしてこの場合、受給者本人に支給されるまでは、支払資金とは分けて「○○県退職金財団預り資産」など適当な科目を付して保管するのが適当でしょう。

(5) 私学退職金団体に対する負担金等の会計処理
学校法人が負担する私学退職金団体に対する入会金、登録料及び教職員の標準給与に対する負担金(出資金、会費又は掛金等の名称のものも含む。)等の支出については、「(大科目)人件費支出」に属する小科目のうちに、たとえば、「所定福利費支出」、「私学退職金社団掛金支出」等の細分科目を設けて処理します(実務指針第44号1-1-4)。

2. 私大退職金財団における退職給与引当金の計上方法及び交付金等の会計処理と表示

(1) 退職給与引当金の計上のしかた
前述した第11号通知の発出に伴い、各大学等の平成 23 年度からの退職給与引当金繰入額又は戻入額は、平成22年度末における退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した退職給与引当金の額から平成23年度中の退職に伴う退職給与引当金取崩額を控除した額と、平成23年度末における退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した額との差額となっています。また、平成24年度以降も、同様に計算した額が繰入額又は戻入額となります。この退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した額とは、私大退職金財団に加入している場合には、期末要支給額に掛金の累積額と交付金の累積額(財源が掛金であること。)の差額である繰入調整額を加減した額であることに留意して下さい。
私大退職金財団に対する掛金の累積額が交付金の累積額を上回る場合には、当該繰入調整額を、引当金要繰入額から控除して退職給与引当金繰入額を算出します。この場合、控除する当該繰入調整額が引当金要繰入額を上回る場合には、この金額を退職給与引当金戻入額として処理します。一方、掛金の累積額が交付金の累積額を下回る場合には、当該繰入調整額を引当金要繰入額に加算して調整後の退職給与引当金繰入額を算出します。
なお、引当金要繰入額とは、前年度末における退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した退職給与引当金の額から当年度中の退職に伴う退職給与引当金取崩額を控除した額と当年度末における退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した額との差額をいいます。
また、私大退職金財団からの退職資金の交付金は、原則として掛金のみを財源としていますが、掛金を財源としない交付金が支給される場合があります(前回掲載した図表「修正賦課方式のしくみ」参照)。これは、加入学校法人が支払った掛金蓄積額(退職資金交付準備特定資産)とは別に、同財団が保有している利息等蓄積額(退職資金支払準備特定資産)を退職資金交付の財源に充当することで退職金支出急増期の学校法人の掛金率の低減・安定化を図ることを目的として支給されています。
この掛金を財源としない交付金については、繰入調整額の計算(掛金の累積額と交付金の累積額の差額)において、交付金の累積額には含めません。したがって、調整計算上、交付金の累積額は、財源が掛金部分のみによることになります(実務指針第44号1-1-2参照)。
私大退職金財団に加入している場合の退職給与引当金繰入額の具体的な調整計算の方法は以下の表のとおりです。なお、掛金を財源としない交付金はないものとします。

項   目 加入初年度 2年度 3年度 3年度
①当年度末退職金要支給額

10,000

10,400

9,000 8,100
②前年度末引当金計上額 9,500 9,700 9,800 9,100
③当年度引当金目的取崩額 500 600 1,000 1,000
④差引引当金期末残高(②-③) 9,000 9,100 8,800 8,100
⑤引当金要繰入額(①-④) 1,000 1,300 200 0
⑥当年度掛金額 600 700 200 1,000
⑦掛金累積額 600 1,300 1,500 2,500
⑧当年度交付金額 300 400 900 800
⑨交付金累積額 300 700 1,600 2,400
⑩引当金繰入調整額(⑦-⑨) 300 600 △ 100 100
⑪引当金繰入額(△は戻入額)(⑤-⑩) 700 700 300 △ 100
⑫当年度末引当金計上額(④+⑪) 9,700 9,800 9,100 8,000

(注)
たとえば、第4年度に利息等蓄積額で充当された掛金を財源としない交付金100があった場合は、引当金要繰入額0-(掛金累積額2,500-(交付金累積額2,400-掛金を財源としない交付金100)=引当金戻入額△200という計算結果になります。

(2) 変更時差異の計算
第11号通知によると、変更時差異は平成22年度末における退職金の期末要支給額の100%を基にして計算した額と、平成22年度末における退職給与引当金残高との差額であるとされています。私大退職金財団に加入している場合には、平成22年度における退職金の期末要支給額の100%の額に当該私大退職金財団に対する掛金の累積額と交付金の累積額との繰入調整額を加減した金額から、同年度末の貸借対照表における退職給与引当金残高を控除した額が変更時差異となります。
また、いわゆる積立方式を採用している私学退職金団体に加入している場合には、平成22年度における退職金の期末要支給額の100%の額から当該私学退職金団体からの交付金相当額を差し引いた額である学校負担要支給額から、同年度末の貸借対照表における退職給与引当金残高を控除した額が変更時差異となります。
例えば、私大退職金財団に加入している法人で平成22年度の退職金の期末要支給額が10,000、同年度の貸借対照表の退職給与引当金の残高が4,900の場合の変更時差異は、以下のとおりです(実務指針第44号1-2)。

平成22年度の期末要支給額 10,000
-掛金累積額 200
+交付金累積額 100
繰入調整額加減後の額 9,900
平成22年度の退職給与引当金残高 4,900
差引 変更時差異 5,000

(3) 交付金等の会計処理と表示のしかた
学校法人が私大退職金財団から受け取る交付金は、資金収支計算書では「(大科目)雑収入」のうちに適当な小科目(例えば、「私立大学退職金財団交付金収入」等)を設けて処理します。なお、事業活動収支計算書上、退職金と交付金とは相殺せずに両建表示します。その理由は以下のとおり、財政方式として私大退職金財団が採用する賦課方式にあります。
賦課方式とは、年度ごとに実際に退職する教職員に対して必要とされる交付金の額に見合うだけの資金を、私大退職金財団が加入学校法人に配分して掛金を徴収する方式です。そして、学校法人が私大退職金財団から受け取る交付金は、加入学校法人が負担した掛金を原資としています。したがって、実際に退職金を支払う学校法人が必ずしも負担したものとは言えず、教職員に対して支払われる退職金との対応関係はありません。つまり、教職員の退職時に、退職金の学校負担が必ずしも生じるものではないことから、事業活動収支計算書上、事業活動収入たる交付金と事業活動支出たる退職金とは相殺する性質のものではないということになります。
一方、私学退職金団体に加入する学校法人では、事業活動収支計算書上、学校法人が受け取る退職資金交付金と支払われる退職金とは対応関係があり、相殺表示が認められる点は1.(3)で解説しました。
なお、学校法人が私大退職金財団に支払う負担金(加入金(財団設立当初において支出した加入金相当額の寄付金を含む。)、登録料、掛金及び特別納付金をいう。)は、「(大科目)人件費支出」に属する小科目のうちに適当な細分科目、例えば、「私立大学退職金財団負担金支出」等を設けて処理します(実務指針第44号1-1-3)。

【参考】 学校法人会計のすべて(第3版)

(永和監査法人 公認会計士 津村 玲)


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