先週までは学校法人に関わる様々な税務について解説してきました。今週からは4回に分けて、退職給与引当金の計算について解説していきます。
1.退職給与引当金はなぜ必要なのか
教職員が退職した場合には、通常退職金が支払われます。退職金は、一般的に就業規則などにおいて退職金の規定を設けた場合は、賃金の一部とみなされ、その支払が学校法人に義務付けられます。このことから、退職金は賃金の後払いであると言われており、就業規則の変更などにより退職金の将来支給額の減額が生じるような場合には、不利益変更とみなされ、よほどの合理的な理由がなければ、その変更が認められることはないと言われています。
また退職金の額は、通常勤務年数に応じて毎年累積していきます。したがって、学校会計の側面から見れば、その支払の原因は、教職員の勤務する各年度に生じているものと考えて、支払に先立って、あらかじめ毎年度その負担額を事業活動支出(退職給与引当金繰入額)として計上し、負債として認識することが必要となります。すなわち、実際の退職金に係る資金支出は教職員の退職時となりますが、事業活動収支計算においては発生主義に基づく期間計算が必要となるため、退職金を一定の方法により退職時までにわたって期間按分することとなります。この期間按分された累積額が退職給与引当金として貸借対照表上負債の部に計上されるのです。
2.退職給与引当金の計上のしかた
退職給与引当金の計上方式には、次の二つの方法がありますが、ほとんどの学校法人が(1) 期末要支給額計上方式を採用しています。理論的には(2) 現価方式もあり得ますが、その計算の複雑性から採用されている事例はほとんどありません。なお、いずれかの方法を採用するかは、学校法人の判断によりますが、一度採用した方法は将来にわたって継続されることが会計処理上重要な要件とされています。
(1) 期末要支給額計上方式
年度末に在籍する全ての教職員が全員退職するとした場合に支給すべき退職金支給額A(期末要支給額から退職金団体交付金を控除した額)と、同じ教職員について前年度末で、同様の方法で計算される額との差額を退職給与引当金繰入額として計上する方法です。簡単に言えば、Aの金額から元帳の退職給与引当金残高を差し引いて計上する方法です。
退職給与引当金繰入額=退職金期末要支給額―当期末繰入前退職給与引当金残高
(注)前年度末の退職給与引当金から、当年度の退職者にかかる引当金を取り崩した後の金額です。
当年度末の教員Aに対する退職金要支給額は150であったが、当年度末に教員Aが退職したため、退職金の支給のため退職給与引当金の取崩し20と、私学退職金団体からの交付金120で支払った。
当年度末退職金要支給額(学校法人の規定による) | 150 |
私学退職金団体 | △120 |
退職給与引当金(退職者分) | △20 |
差引学校法人負担額 | 10 |
〔仕訳例〕
(資金収支計算の仕訳)
(借方) 退職金支出 150 | (貸方) 現金預金 150 |
(借方) 現金預金 120 | (貸方) 私学退職金団体交付金収入 120 |
(事業活動収支計算の仕訳)
(借方) 退職給与引当金 20 | (貸方) 退職金 20 |
(2) 現価方式
年度末の要支給額を、一定の利子率及び将来支給時までの期間で現在価値に割り引いた額を退職給与引当金とする方法です。
ただし、この考え方は、営利法人における「退職給付会計」の導入により変わってきています。すなわち、この「退職給付会計」とは、決算日において事業主に発生している従業員(制度加入者)等に対する退職金等の支払義務と、これに関する年金資産等の積立不足(超過)の状況を明らかにして、事業主が負担すべき退職給付費用を算定するという会計制度です。ここでいう費用は年金数理計算に基づく複雑な計算過程を経て算定されています。具体的な解説は省略しますが、現在、上場企業の計算書類では、この「退職給付会計」が義務付けられており、企業の財政状態に対する積極開示に役立てられています。
学校法人会計基準では、「退職給付会計」のような制度は採用されておらず、また現価方式に基づいて期末要支給額を割引計算するようなことも求めていません。ただ、企業会計のような将来退職金の現在価値表示については、今後の課題といえるでしょう。
3.退職給与引当金繰入額の表示のしかた
退職給与引当金繰入額は、人件費(大科目)の中の小科目で表示します。退職給与引当金繰入額と退職金が同時に発生した場合は、たとえ少額であっても、それぞれ独立科目として表示することが望ましいでしょう。
4.退職金団体について
私立学校教職員の退職金については、その最低額を保障し給付を確実なものとするための制度として、私立の幼・小・中・高校などの教職員については各都道府県ごとに私立学校退職金団体(以下「私学退職金団体」)が設立されています。また、私立の大学・短期大学・高等専門学校の教職員については全国組織としての「公益財団法人私立大学退職金財団」(以下、「私大退職金財団」)が設立されています。学校法人がこれらの退職金団体に加入した場合には、一定率の掛金を負担する代わりに、教職員の退職時には退職金の支払に充てるため、退職金団体から所定の交付金が支給されます。
学校法人は、教職員が退職した場合、退職金団体から交付金が支給されるわけですが、加入する退職金団体によって退職給与引当金の計算方法が異なります。すなわち、私学退職金団体においては、いわゆる事前積立方式が採用されており、毎期、私学退職金団体に対して学校法人が支出する掛金等は、将来の退職金の原資として積み立てられ、教職員の退職時には交付金として学校法人が受け取ることができます。したがって、学校法人は、本来支払うべき退職金の額(要支給額)と交付金の額との差額だけを負担すべき引当金として設ければよいということになります。
一方、私大退職金財団においては、日本の年金制度に類似した賦課方式が採用されており、年度ごとに実際に退職する教職員に対して必要とされる交付金の額に見合うだけの資金を現在の加入学校法人に配分し徴収する方式をとっています。したがって、加入学校法人自らが過年度に拠出した掛金等を将来の退職金の原資として受け取ることは原則として予定されていません。このため、退職給与引当金として計上する金額は、期末日の退職金要支給額の100%から、必要な調整計算を行った後の金額(掛金の累計額を控除し交付金の累計額を加えた金額)とされています。この点で私学退職金団体における退職金制度とは異なります。
なお、私大退職金財団又は私学退職金団体いずれにも加入せずに、学校法人が独自の退職金制度を採用している場合でも、学校法人が負担する部分については期末要支給額の100%を退職給与引当金として計上することになります。なぜなら、文科省第11号通知の1(1)において、私大退職金財団又は私学退職金団体に加入している場合以外においても、「通知の趣旨を踏まえ、明瞭かつ適切に処理する」とされているからです。したがって、文科省第11号通知が適用される平成22年度以降の計算書類では、期末要支給額の100%を退職給与引当金として計上することが必要となっています。
また、企業年金制度を採用している場合等については、企業会計の方式に準拠し、一般に公正妥当な会計慣行に基づいた算定方法を採用することも妥当な処理として認められます(日本公認会計士協会実務指針第44号1-3)。
【参考】学校法人会計のすべて・第3版
(永和監査法人 公認会計士 津村 玲)