今回は付随事業と収益事業の扱いの違いを中心に解説します。
1.付随事業と収益事業の扱いについて
学校法人は、本来事業である教育研究活動のほか、学校教育の一部に付随して行われる事業(以下、「付随事業」という。)及び収益事業を行うことができるとされています。ただ、学校法人は教育研究活動を主たる目的として設立された法人ですから、その適切な運営を確保していく観点から、本来事業である教育研究活動以外の事業については、一定の範囲内で行っていくことがふさわしいと考えられます。
一方、近年、学校法人においては、様々な性質、種類、規模の付随事業や収益事業を行う例が見受けられるようになってきているため、私立学校法第26条に基づく収益事業告示(平成20年文部科学省告示第141号)の運用にあたっての具体的な指針として、平成21年2月26日付けで、「文部科学大臣所轄学校法人が行う付随事業と収益事業の扱いについて(通知)」が発出されました。当該通知には、付随事業の範囲が明示されておりますので、以下「2.付随事業について」においてその要約を記載します。
2.付随事業について
(1)付随事業の範囲
文科省所轄学校法人が行うことのできる付随事業の範囲は、以下①から⑧の条件を満たしたものであることが当該通知(別紙)において規定されています。
- 目 的
収益を目的とせず、教育研究活動と密接に関連する事業目的を有すること - 実施主体
学校法人自らが事業を実施する必要性が十分に認められること。他者からの請負で実施する ものでないこと - 事業の性質・種類
収益事業告示(平成20年文部科学省告示第141号)に定める範囲内であること - 事業規模
事業の規模は、おおむね下記(A)の範囲であること。特定の付随事業が特定の学校の教育 研究活動と密接に関連する場合は、(A)かつ(B)の範囲であること
(A):全付随事業に関する収入/学校法人全体の事業活動収入<30/130
(B):特定の付随事業に関する収入/特定の学校部門の事業活動収入<30/130 - 事業対象者
事業対象者(物品やサービスの提供先)は、主として、在学者又は教職員及び役員であること。事業の性質上、やむを得ず主たる対象者が、在学生又は教職員及び役員以外となる場合には、教育研究活動において、在学者又は教職員及び役員が、当該事業として提供される物品やサービスを50日(3セメスター制の1セメスター相当)程度以上活用する具体的計画があること - 収支の均衡
事業における収入は、費用を賄う程度とすること - 財 源
事業に使用する土地の確保及び施設・設備の整備に必要な経費、毎年度の経常経費の財源は、できる限り負債性のない資産を充てること(行政機関からの補助金等可)。借入金を充てる場合には、無理のない返済計画を有すること - 土地・施設・設備
事業に使用する土地・施設・設備は、原則、自己所有であること。借用の場合には、長期間にわたり使用できる保証があること。土地・施設・設備の取得・借用費用は、事業内容や収支計画に照らし、過大なものでないこと
(2)寄附行為への記載
(3)に基づき部門を設けて表示する付随事業は、寄附行為に記載し文部科学省の認可を得ること。その際、事業の種類については、日本標準産業分類(平成19年総務省告示第618号)の名称を例として具体的に記載すること
(3)会計に関する表示方法
下記①、②、③の全てに該当する付随事業は、資金収支内訳表及び事業活動収支内訳表に部門を設けて表示すること。①、②、③のいずれかに該当する場合であって、かつ、組織、施設等において独立的に活動を営む場合には、部門を設けて表示することが望ましい。
- ① 在学者又は教職員及び役員以外の者を主たる対象者として行う事業
- ② 校舎(法人本部棟を含む)とは別に施設を設け行う事業
- ③ 事業を行うに際して、行政機関の許認可を必要とする事業
なお、学校法人会計基準上の付随事業の扱いは、次のとおりです。
付随事業は、「補助活動」と「補助活動以外の活動」からなりますが、補助活動は、主として在学者を対象とするものであり、学校法人会計基準第5条に定める「食堂その他教育活動に付随する活動」は、補助活動を指します。
なお、教職員及び役員を当該活動の対象者に含めてもよいです。
同条において、「食堂その他教育活動に付随する活動」の収入と支出は、純額をもって表示することができることとしていますが、当該活動が、上記②、③のいずれかに該当する場合であって、かつ、組織、施設等において独立的に活動を営む場合には、部門を設けて表示することが望ましく、その場合には、原則通り、総額をもって表示することとされています。
(4)文部科学省への事前相談
次のいずれかに該当する事業(保育事業を除く)は、付随事業としての実施を学校法人として決定する前に、必ず文部科学省に相談することが必要です。
- ① 在学者又は教職員及び役員以外の者に物品やサービスの提供を行い対価を得る事業
- ② 学校の所在地と離れた場所に施設を設置して行う事業
- ③ 事業を行うに際して、行政機関の許認可を必要とする事業
3.私立学校法上の収益事業について
(1)収益事業の事業規模制限
私立学校法第26条に基づき、収益事業告示(平成20年文部科学省告示第141号)に定める範囲内で行うものであり、寄附行為に記載し文部科学大臣の認可を得ることが必要です。また、本収益事業は、私立学校の経営に係る一般会計(学校法人会計)から区分し、特別会計(企業会計)として経理することが求められておりますので、留意が必要です。ここで、特別会計として区分された別会計(収益事業会計)から一般会計である学校法人会計に繰入れた金額のことを「収益事業収入」といい、活動区分資金収支計算書では「その他の活動による資金収支」の区分に計上され、事業活動収支計算書では「教育活動外収支」の区分に計上されます。
そして、収益事業の規模については、概ね下記(C)の範囲であることが必要です。もし、連続3ヶ年度、下記(C)の規模を超えた場合には、文部科学省に相談の上、事業の見直し(事業縮小や当該事業の実施にふさわしい法人の設立)を検討することになりますので、この点も留意が必要です。なお、税務上の収益事業(法人税法施行令第5条第1項で特掲される34業種)とは取扱いが異なりますので注意してください。
(C):全収益事業に関する売上高及び営業外収益<学校法人全体の事業活動収入(注)
(注)収益事業からの繰入収入、特定年度にのみ臨時的に生じた収入(資産売却差額等)及び保育事業による
収入を含みません。
(2)指定管理者業務
学校法人が指定管理者として行う地方公共団体の所有する施設(図書館や美術館など)の管理運営業務については、①地方公共団体からの請負であること、②施設は地方公共団体の所有であり学校法人自らが設置したものではないことに鑑みて、学校法人が行う本来事業又はこれに付随する事業とはみなせないことから、収益事業として取り扱う必要があります。
なお、その際に地方公共団体との契約により指定管理者として管理運営する施設を教育研究に活用することは可能です。
(公認会計士 津村 玲)